第八十話 戻ってきた殿下
「リンデフィーヌさん、申し訳ありません。遅くなりました」
殿下がようやく戻ってきた。
つらそうな様子の殿下。
わたしを待たせたことに対するものだろうか?
そのことについては、待つのが当然だと思っているので、つらいと思わせたとしたら、わたしの方から謝らなければならない。
それともお二人に、わたしのことについて厳しいことを言われたのだろうか?
両方であってはほしくはないけれど……。
「わたしだったら、大丈夫です。お気になさらないでください」
「でもこれだけ長い時間、あなたを待たせてしまいました。申し訳なく思います」
殿下はそう言って頭を下げる。
「殿下、頭をお上げください。わたしは、殿下が気づかってくださるだけでありがたいのです」
殿下は、わたしがそう言うと、
「リンデフィーヌさんはやさしい。こちらこそ気づかっていただいてありがたいです」
と言って頭を上げた。
少し表情が柔らかくなったような気がする。
そして、殿下は、
「これだけ時間がかかったのは、お父上とお母上が反対されたからです」
と言った。
「反対されたのですね……」
二人の立場であればそう言うだろうとは思っていた。
反対されたということは、ここから追い出されてしまうのだろうか?
「それで、わたしが今まで、お二人の説得を続けていて、長い時間がかかってしまいました」
「説得することはできたのでしょうか?」
だんだん緊張し始めてきていた。
もし説得できなかったとすれば、もうわたしはここを追い出されることになる。
その可能性はあると思いつつも、一方ではその可能性があるとは思いたくなかった。
間もなく殿下の方から、説得できたかどうかの結果が出てくる。
説得できてほしいと思っていた。
しかし、説得できなかった時は、ここをすぐ離れるしかないと思う。
もう夜も遅くなってきているが、王都の宿屋であれば、泊めてくれるところはあるだろう。
そこで一泊して、明日、職を探すことにしようというところまでは思っていた。
わたしは殿下の言葉を待った。
すると、殿下は、
「お喜びください。お父上もお母上も、あなたが客人になることをご承知していただきました」
と微笑みながら言った。
わたしはすぐには信じられない思いだった。
「それは、本当のことでございますか? この部屋、そして、王宮から出ていかなくてもよろしいのでしょうか?」
殿下に思わず聞き返していた。
「本当です。ここから追い出すということは一切ありません。安心してください」
「でも、お二人は、反対されていたと伺いました」
「反対はしていました。婚約破棄をされたことと、公爵家から追放されたということで、お二人とも『そのような女性を客人として遇するなどとんでもない。今すぐ追い出しなさい』とおっしゃっていました」
わたしも二人の立場ならそう言うかもしれない。
これは仕方のないところだろう。
殿下は話を続ける。
「しかし、わたしは、『それは、婚約破棄した方や公爵家を追放した方に問題があるのです。お父上もお母上も、リンデフィーヌさんとお会いになれば、彼女の高貴な人柄をご理解していただけると思います。そして、彼女に問題があったのではないということもそれでご理解していただけると思います。そうした方が困っているのに、救わないのは、この王国の名折れになると思いますし、わたしとしても、心苦しいことなのでございます。わたしはリンデフィーヌさんのことを救いたいと思います。どうか、客人としての待遇をさせていただきますようお願いします』と言ったのです」
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