第七十二話 殿下の執務室に一人で残されるわたし
「リンデフィーヌさん。わたしはお父上とお母上のところに報告に行って参ります。もしかすると、少し時間がかかってしまい、待たせることになってしまうと思います。その時は申し訳ありません」
「わたしは大丈夫です。ここでお待ち申し上げています」
「ありがとうございます」
殿下は恥ずかしそうに言った。
「それではまた後ほど参ります」
そう言って殿下は、側近たちと一緒にこの部屋を出て行った。
執事もこの部屋を出て行った。
部屋に一人で残されるわたし。
一人になると、いろいろなことが心の中に浮かんでくる。
殿下は、父国王陛下と母王妃殿下に、わたしを客人として遇することを伝えると言っていた。
殿下は、お二人の反対がないということを前提にして、お二人のもとに向かった。
しかし、本当に反対しないでいただけるのだろうか?
反対しないでほしいと思う。
わたしを受け入れてほしいと思うが、婚約破棄をされ、公爵家を追放されたとなると、普通は心よく思わないと思う。
いや、心よく思わないくらいならいい。
「そんな人間を客人として遇するなどもっての他。今すぐ王宮から追い出しなさい!」
と言われ、追い出されてしまうかもしれない。
殿下がその時、守ってくださって、この王宮にそのまま滞在し続けられればいいんだけど……。
と思ってきて、わたしは思い直した。
わたしはこの王都で職につく為にやってきた人間。
たとえ、二人の了解がえられず、この王宮から追い出されたとしても、殿下のやさしさは味わうことができたのだし、それだけでも十分だ。
そしてさらに、この執務室に入ることができた。
ここまできたのは予想外のことで、名誉なことだ。
それ以上のことは、望んではいけないだろう。
そう思っていると、
「紅茶とお菓子を持って参りました」
と執事が言い、わたしの前に一式をセットする。
「それではごゆっくりおくつろぎください」
執事はそう言うと、部屋を去っていった。
感情は、ほとんど出さないタイプのようだ。
わたしのことをどう思っているのかどうかはわからない。
しかし、どう思っていようとも、それを表情には一切出さないようなので、そういうところは安心する。
わたしは紅茶を飲みながら、殿下が戻ってくるのを待った。
馬車の中で睡眠はとってはいたものの、疲れは思うほどとれていない。
あれほど眠っていたのに、と思うのだけど……。
それと、お二人がどうわたしのことを思っているだろうか? という思いが組み合わって、食欲があまり出てこない。
お菓子はおいしいのだが、食欲があまりないので、少ししか食べることができていない。
それは仕方のないところ。
殿下はなかなか帰ってこない。
公務の報告自体は、多分そこまで時間がかからないと思われるので、わたしの扱いをどうするかというところで、時間を費やしているのだろうと思う。
先程は、これでこの王宮を去ることになってもしょうがないと思っていた。
しかし、こうして執務室にいると、先程までとは違う気持ちになってきた。
殿下の執務室で、殿下のお役に立つ仕事がしたい。
このままお別れはしたくない。
殿下のおそばにいて、もっと仲良くなっていきたい。
そういった気持ちが湧き立ち始めていた。
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