第七十一話 殿下の執務室
馬車は、王宮に到着した。
殿下の執務室のある建物の玄関に、馬車が着いた。
殿下は馬車を降りると、出迎えた執事に、
「この方は、ラマトン王国での公務から帰る途中、賊に襲われて困っていたので救けました。そして、ここまで来ていただきました。当分、この王宮に滞在していただこうと思っています。よろしくお願いします」
と言った。
執事はなんと言うだろうか?
「それは困ります」
と言うのだろうか?
執事に言われたら、殿下も困惑してしまうのでは。
そうなったら殿下に申し訳ないと思っていたのだけど……。
「はい。かしこまりました」
執事は、特に反論することもなく、淡々とそう言って頭を下げた。
「では、こちらへ」
殿下はそう言うと、わたしに手を差し出した。
少し恥ずかしそう。
わたしも殿下の手を握るのは恥ずかしい気持ちでいっぱいだが、そのままでは馬車から降りることはできないので、恥ずかしさをこらえながら、殿下の手を握った。
殿下のやさしい気持ちが流れ込んでくる。
とはいうものの、それはわずかの間でしかなかった。
わたしが馬車から降りると、殿下は手を離した。
もう少し手を握っていたかったが、仕方がない。
「お願いがあります」
殿下は執事に呼びかけた。
「はい、なんでございましょう」
「この方は、わたしと一緒にまず執務室に行きます。そして、わたしはお父上とお母上のところに、今回の公務についてのご報告に参りますと同時に、この方の話もお二人にいたします。お二人には、この方を客人として遇することを伝えていきます。その間は執務室で待ってもらいますので、お茶とお菓子でもてなしていただくようお願いします。その後のことは、また指示しますので、よろしくお願いします」
殿下がそう言うと、
「かしこまりました」
と執事は応えた。
殿下は、わたしの方を向き、
「リンデフィーヌさんには、わたしが報告に行っている間、執務室で待たせることになりますが、申し訳なく思っています。その間は、お茶とお菓子を提供させていただきますので、おくつろぎください」
と言った。
「お気づかいをしていただきまして、ありがとうございます」
わたしは頭を下げた。
「それではリンデフィーヌさん、わたしの執務室に向かいましよう」
「ありがとうございます」
殿下と執事と殿下に付き添ってきた側近二人、そして、わたしの五人は、廊下を歩き、殿下の執務室に向かった。
殿下の執務室、どんなところだろう?
殿下のことだから、きっと質実剛健な感じの部屋なのだろうと思う。
そして、わたしたちは、殿下の執務室に入った。
この執務室は、王太子殿下の部屋というだけあって、かなりのスペースがある。
部屋の中は、きれいに清掃がされていて、爽やかさを感じる。
殿下の机もきれいに整頓されていた。
きっと、効率よく仕事をこなしているのだろう。
そのそばには、本棚があり、たくさんの本が並んでいる。
仕事の合間に、読書を一生懸命して、自分を磨いているんだと思う。
その机の近くには、大きな机があり、十人分の席が用意されている。
ここで会議をすることも結構あるのだと思う。
全体的に、わたしが思っていた通り、質実剛健な感じの部屋だった。
いい部屋だと思う。
「ここにお座りください」
殿下は、その大きな机の一番前に座るように、わたしに言った。
「では座らせていただきます」
わたしは殿下に一礼をして、その席に座った。
「面白い」
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