第六十四話 婚約者を決められるわたし (マイセディナンサイド)
父国王は、一か月前、舞踏会に招かれた婚約者候補の中から、今すぐ婚約者を決めろと言っている。
決めることなどできるわけがない。
わたしは婚約自体したくはないのだ。
とはいうものの、ここで断ったら、それこそ大きな怒りがわたしを襲うだろう。
幼い頃、わたしは父国王には、それほど怒られていたわけではない。
しかし、怒る時の父国王は、とても怖いものだった。
最近は、父国王が高齢になり、権限が委譲されてきたので、そういうこともなくなってきていたが、どうしてもその時のことを思い出してしまう。
父国王に怒られたくないという気持ちはどうしても強くなる。
「さあ、決めなさい!」
父国王は強い調子で言ってくる。
「今日、決めなさい!」
既に少しずつ怒り始めていた。
怒りの状態がここまでであればまだいい。
しかし、わたしが決めないと、厳しい状態まで進みそうだ。
それは避けたいところ。
わたしは、
「申し訳ありません。わたしには決められません。お父上が決めていただけませんでしょうか? そうしていただけるとありがたいです」
と父国王に申し出た。
父国王の怒りの矛先をかわすには、そう言うしかないと思った。
「わたしが決める?」
「そうでございます。お父上であれば、きっと、わたしにふさわしい女性を選んでいただけると思っています」
「そこまで言うんだな。わたしがどういう女性を選んだとしても、絶対に反対するな」
「もちろんでございます。反対などいたしません」
「もう一度言う。反対しないな!」
「お父上に従います」
「ではわたしが決めよう」
父国王は、それまでの厳しい口調から、少し柔らかい口調になる。
「お前は多分婚約者を決めないと思っていた。しかし、それでも少しは期待をしていたんだがな。残念でしょうがない。まあもうそれは言ってもしょうがない。わたしたちは、お前が決められないだろうということを前提といて、婚約者を誰にするかということについて、この一か月相談を続けてきた」
「お父上とお母上がですか?」
「そうだ。話し合いを続けてきた」
「それで、婚約者になる女性はもう決めたのですか?」
ここでまだ決まっていないという話になれば、今日のところは婚約者が決まらないことになる。
わたしとしては、婚約者が決まる日が一日でも遅い方がいい。
決まっていないと言ってほしいと思ったのだが……。
その願いはあっという間に打ち砕かれてしまった。
「もう決めてある」
「決めていたのですね」
「そうだ。先程も言ったが、反対はしてはならない。それは理解しているな」
「それはもちろんでございます」
「ではその婚約者のことを話すとしよう」
聞きたくはないが、決めているという以上、聞くしかないと思う。
「お前の婚約者に決めたのは、ブルトソルボン公爵家令嬢、リンデフィーヌだ」
父国王は威厳を持ってわたしに言った。
「リンデフィーヌですって?」
わたしは驚いた。
予想外の話だった。
ゴージャスさというところから一番遠い女性。
舞踏会の時点で、既に嫌になっていた。
その当日に断ろうと思っていたぐらいだ。
その女性を、わたしの婚約者にすると言っている。
これは、理解が難しいことだった。
わたしは舞踏会以来、会ってもいない女性だ。
わたしにとっては魅力がなく嫌な女性でも、両親にとっていい女性なのだろう。
そうわたしは思った。
「面白い」
「続きが気になる。続きを読みたい」
と思っていただきましたら、
下にあります☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に思っていただいた気持ちで、もちろん大丈夫です。
ブックマークもいただけるとうれしいです。
よろしくお願いいたします。