第五十九話 殿下の客人
わたしは殿下に客人としての招待を受けた。
それはうれしいことだ。
ただ、王室の方々のことは気になる。
殿下が良くても、決していい気持ちはしないだろう。
しかも、わたしは貴族ではない。
「殿下、ありがとうございます。ですが、わたしにとっては過分なお話です。それに、わたしのようなものが王宮に滞在することになると、王室の方々がきっと反発されると思います。そうすると、殿下にまでご迷惑をおかけしてしまうと思います。わたしは殿下にご迷惑をおかけしたくはありません。したがって、申し訳ありませんが、お断りした方がいいと思っています」
殿下の客人になって、殿下と仲良くなりたいという気持ちはもちろん強い。
しかし、その一方で、わたしは公爵家において継母や異母姉にいじめられた経験がある。
客人になれば、いじめられる可能性はあるだろうし、そこまでいかなくても、冷たい態度をとる人は多そうだ。
それは避けたいという気持ちも強い。
職探しは大変そうだし、職についてからも大変だと思うので、どちらがわたしにとってのいい選択になるのかどうかはわからないところだ。
とはいうものの、殿下とこれで離れてしまうのは、何にも増してつらいことだと思うのだけど……。
そう思っていると、殿下は、
「心配なさることはありません。あなたのことはわたしが守ります。安心してください」
とやさしく言ってくれた。
わたしはその言葉に、心が沸き立っていく。
「殿下……」
「あなたは今まで、つらい目にたくさんあってきたのだと思います。わたしと会ったからには、そういうつらい目には、もうあわせないと思っています。その為に客人として招き入れるのです。王室の方々の中で、もしあなたのことをよく思わない人がいたら、わたしが説得しますし、場合によっては叱りたいと思っています。わたしはそれだけあなたのことを大切にしたいと思っているのです」
殿下はそう言って、恥ずかしそうに微笑んだ。
「わたしのことを大切にしたいと思っている」
それは、わたしに恋をしているということなのだろうか?
そうだったらこれほどうれしいことはない。
いや、それは、わたしのことをかわいそうだと思う気持ちが強いということで、恋とは違うのかもしれない。
わたし自身はどうなのだろう。
殿下のことはどんどん好きになってきている。
それは、殿下に対する恋なのだろうか?
自分でもまだそれはよくわかっていない。
恋にまで育っていくかどうかはわからない。
前世で会っている方だという気持ちも強いが、それもわからない。
ただの思い込みの可能性もある。
でも殿下ともっと一緒にいたいという気持ちを抑えることはできない。
王室の方々にどういう仕打ちを受けようとも、そしてどんなつらい思いをしても、それは我慢しなければならないと思う。
そして、殿下の申し出を受けるべきだろう。
わたしは決断し、
「殿下、ありがとうございます。ここまでのお気づかい感謝申し上げます。殿下のお申し出をつつしんでお受けさせていただきます」
と言って頭を下げた。
わたしの言葉を聞くと、殿下は、
「わたしの申し出を受けていただきまして、こちらこそありがとうございます。うれしいです」
と微笑みながら言った。
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