第五十六話 恥ずかしそうに微笑む殿下
わたしが目を覚ましたのは、走っている馬車の中。
既に昼は過ぎていて、夕方が近くなっている頃だった
ずっと馬車の中で寝ていたことになる。
思っていた以上に疲れがたまっていたということだと思う。
頭の方から、少しやさしさが流れ込んできている気がする。
なんだろうと思った。
でも心地いいので、このままの状態で当分いたいと思っていると、
「お目覚めになられたようですね」
という声が聞こえてきた。
隣には、恥ずかしそうに微笑む殿下。
いつの間にか、わたしは殿下の肩に寄りかかって眠っていた。
わたしはあわてて、
「殿下、失礼いたしました。申し訳ありません」
と言って、殿下の肩から離れる。
わたしったら、まだ知り合って間もない殿下に寄りかかって寝てしまうなんて。
つつしみのない女性と思われただろうか?
これで嫌われなければいいんだけど……。
どうも先程から、殿下に嫌われないようにしたいと思っているのに、うまくいっていない気がする。
でも、もう少し寄りかかっていたかった気もする。
せっかく寄りかかっていたというのに、眠っていたので、ちょっとしか殿下のやさしさを味わうことができていない。
それは仕方がないことだとは思うのだけど……。
「気にすることはありませんよ」
殿下はやさしくそう言ってくれた。
「後、もう少しで王都に入ります。もしまだ疲れがとれないままで眠いようでしたら、眠っていただいて構いません」
「お気づかいありがとうございます。でもだいぶ眠ることができましたので、疲れも取れてきました。大丈夫です」
それにしても、馬車での旅の間に、殿下と少し話をしようと思っていたのに、眠っていたので、ほとんどできないまま旅が終わろうとしている。
こんなチャンスは二度とないと思うのに、それを生かすことはできなくなってきている。
後少しでもう王都に到着するという。
王都に入ってしまえば、その時点で殿下とはお別れになってしまう。
お別れはしたくない。
もっと一緒にいたい。
お話をして、少しでも仲を良くしていきたい。
殿下の方はどう思っているのだろう。
わたしのことは、少なくても嫌いではないと思う。
先程は、わたしに寄りかかられて、恥ずかしがっていたようなので、少なくとも異性としての意識はありそうな気はする。
しかし、それ以上でもない気もする。
もっと異性として意識をしてもらえるとうれしいんだけど……。
そう思っていると、
「リンデフィーヌさん」
殿下が恥ずかしそうに話しかけてくる。
「な、なんでしょう?」
「これからのことです。これからどうされるのか、一人で行動されると思いますので、わたしは心配しています」
「殿下……」
そのやさしい気づかいに目がうるんでくる。
「王都へ行くことは伺いましたが、それから先のことは伺っていませんでしたので、もし差支えなければ教えていただきたいと思います」
「殿下、わたしのようなものに気づかいをしていただいて、ありがとうございます。今のところ、王都に着いたら職を探し、働こうと思っています。王都に行けば、様々な職があるとのことでしたので、自分に一番適していそうな職につきたいと思っています。初めは慣れなくて苦しい思いをすると思いますが、一生懸命努力すれば、きっといい方向に行くと信じています」
わたしは殿下にそう言った。
できれば殿下のおそばにもう少しいたかった。
わたしのことを抱きしめていただきたかった気持ちもある。
でももうお別れの時がきている。
殿下との出会いは、いい思い出として心に刻んでいこう。
わたしはそう思っていた。
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