第五十五話 わたしは間に合わない (異母姉サイド)
わたしの思惑通り、殿下は、
「このものはわたしに無礼を働いた。よって、ブルトソルボン公爵家からこのものを追放することを命じる」
と言って、婚約を破棄されただけでなく、ついに公爵家からの追放も決定した。
リンデフィーヌはその後、この部屋から追い出されていったのであるが、当然のことながら同情というものは全くなかった。
同情するどころか、今までずっと嫌いだったリンデフィーヌのみじめな姿を見て、うれしくてたまらなかった。
これで、明日、舞踏会で王室や貴族たちの前で、殿下の婚約者ということを宣言するだけになった。
そうすれば、後は結婚に向かって一直線。
後もう一人、打撃を与えなければならないものが残っている。
隣で笑っている継母だ。
今は小康状態とはいうものの、リンデフィーヌという共通の敵がこうしていなくなれば、いずれ対立すると思われる。
わたしは公爵家当主なので、立場は上だ。
しかし、公爵夫人だったので、公爵家内の勢力はかなりのものであるし、わたしの後見役にもなっているので、継母の協力なしには、公爵家を運営していくのは困難となっている。
当分は協力していくしかないだろう。
でもいつかは、打撃を与え公爵家の全権を握りたい!
わたしはそう思っていたのだった。
そして、舞踏会の当日。
たくさんの王室の人々や貴族のものたちが参集している。
わたしは得意の絶頂に上りつめようとしていた。
どのものたちも、わたしを祝福する為に集まってきていると思っていた。
殿下がわたしとの婚約を宣言した後、わたしは得意なダンスを殿下と、皆の前で踊る。
そうすれば、わたしに対する祝福の声と拍手は、果てしないほど続くだろう。
そう思っていたのだが……。
「わたしはブルトソルボン公爵家のルアンチーヌと婚約することを宣言する!」
殿下がそう宣言したにも関わらず、無言の状態が訪れてしまった。
これはどうしたことだろう。
全くの計算違いだった。
王室の人々や貴族のものたちは、わたしよりもリンデフィーヌを支持しているのだろうか?
そんなことはないはず。
もともとわたしの方が、リンデフィーヌよりも魅力があるのだ。
こんな無言の状態が続くのはおかしい!
そう思っていると、ようやく散発的な拍手が始まった。
そして、なんとか一応は全員の拍手を受けたというものの、心がこもっているとは到底思えなかった。
ダンスを殿下とその後踊ったものの、反応はこれも今一歩だった。
わたしの心はだんだん傷ついていく。
どうして祝ってもらえないのだろう。
わたしは殿下の婚約者になったというのに。
リンデフィーヌの方がわたしよりも魅力的なのだろうか?
そんなことは絶対にないはずだと思うのだけど。
ああ、せっかく婚約者になったのに、なぜこんなつらい思いをするのだろう……。
しかし、ダンスが終わった後、参集した人々を眺める内に、わたしは思い直し始めた。
いくらわたしのことをよく思っていないものが多かったとしても、関係はない。
わたしは殿下の婚約者になった。
やがては王妃になり、今はまだ祝福してくれない王室の人々や貴族たちを従わせていく。
そして、この王国を思い通りに動かしていきたい。
難しいことかもしれないが、そういう方向に行くことを信じて、進んでいくしかない。
しかし……。
夜一人になると、心の傷がうずいてきた。
今日この舞踏会での冷たい反応は、どう思ったとしてもわたしの心に打撃を与えるものだった。
わたしは殿下と婚約してよかったのだろうか?
その内、殿下が今まで付き合ってきた十人以上の女性やリンデフィーヌと同様に捨てられてしまうのではないか?
婚約すべきではなかったのでは?
どうしてもそう思いが心に浮かんできて、心が苦しくなってきていた。
こんなことなら、リンデフィーヌが婚約者のままだった方が良かった気もしてくる。
しかし、今からそれを言っても、もう間に合わない。
このまま殿下の婚約者として、まずは生きていくしかない。
殿下、わたしと絶対結婚してください!
そう強く願うわたしだった。
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