第五十話 継母の言葉 (異母姉サイド)
殿下の執務室で、わたしたちは殿下と向き合っていた。
殿下にいい印象を与えるべく、ここにやってきたのだけど、殿下には冷たい態度を取られている。
心が動揺し始めたところだったが、継母は、
「殿下に提案をさせていただきたいと思いまして、今日はこちらに参上させていただきました」
と言った後、
「単刀直入に申し上げます。このルアンチーヌを殿下の婚約者にしていただきたいのです」
といきなり婚約の話を持ち出した。
予定では、ある程度殿下とわたしが話をして、殿下のわたしに対する好感度が上がってから婚約の話を切り出すはずだったのだけど……。
わたしはさらに動揺する。
継母は何を言っているのだろう。
まだ会ったばかりで、殿下はわたしのことを何もまだ知らないというのに、婚約の話をされたら、まとまるまるものもまとまらなくなってしまう。
今の時点での婚約者はリンデフィーヌなのだ。
いや、それ以前に嫌われてしまうかもしれない。
継母自体が計画を立てて、それに従ってきたのに、自らそれを壊すようなことをする。
心の底ではわたしを嫌っていて、婚約者にさせたくないのではないだろうか?
とにかくこのままでは、殿下に好意は持ってもらえそうもない。
今すぐにでもこの部屋から出されてしまうかもしれない。
そう思っていたわたしだったが、殿下は、少し困惑した表情をしつつもそのまま継母との話を続けていく。
これは意外な展開だった。
「わたしにはリンデフィーヌという婚約者がいる。そして、あなたは義理とはいうものの、その母親だ。なぜルアンチーヌを婚約者にしたいなどと言うのだ?」
殿下がそう言ったのに対し、継母は冷たく笑いながら。
「これも単刀直入に言いましょう。わたしはあの子が嫌いだからです。ですから、ルアンチーヌを婚約者にしていただきたくて、今日、ここに参上させていただいたのです」
と言った。
殿下からしてみれば、わたしだって継母の実の子ではない。
同じように嫌ってしまいそうなものだと思うだろう。
その点を殿下が聞くと継母は、少し涙ぐみながら、殿下にまずわたしとリンデフィーヌの扱いの差について話をし始める。
「それは、この世を去った公爵閣下が、あの子の母親のことを懐かしく思うことが多かったからです。今の妻はわたしだというのに、そういう態度を取られると、腹が立ってしょうがありませんでした。その母親の子だと思うと、憎しみの心が湧いてくるのです。その点、ルアンチーヌの母親については、懐かしがることはほとんどありませんでしたので、憎しみなどはありません。ルアンチーヌに対しては、むしろ、実の母親がいないということで、かわいそうな気持ちになり、わたしが育てていかなくては、と思いました。ですから、わたしはルアンチーヌを大切に思って、ここまで育ててきたのです」
こう言った後、続けて、
「わたしはルアンチーヌを公爵家からの婚約者候補にしたいと思っていました。しかし、それはかないませんでした。リンデフィーヌが婚約者候補に決まった時、ルアンチーヌもつらかったでしょうが、このわたしもつらい思いををしました。それだけならまだしも、殿下の正式な婚約者になってしまいました。しばらくの間は悲しみにくれていましたが、やがて、このまま倒れているわけにはいかないと思いました、あの子とその母親に絶対勝ちたい! なんとしてでもルアンチーヌを殿下の婚約者にする! そう心に決めたのです」
と言い、自分の思いを殿下に伝えた。
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