第四十五話 殿下の馬車に乗っているわたし
わたしは今、殿下の馬車に乗っている。
しかも、なんと、殿下の隣にいる。
ハンサムで凛々しくて、生命の危機にあったわたしの前に颯爽と現れ、あっという間に賊を撃破したお方。
この素敵なお方のおそばにいる。
夢のような話だ。
つい先程までは、生命を失いかけていたのに、ここまで運が好転するとは思わなかった。
微笑んでいる殿下。
なんと素敵な微笑みなのだろう。
心がとろけていく。
このままずっと殿下のおそばにいられるといいんだけど……。
王都に行けば、そこでお別れ。
殿下とわたしは、身分が違いすぎるので、会うことすらかなわなくなるだろう。
だから、今だけは、殿下と一緒にいる幸せをかみしめていきたい。
殿下とわたしの間には、隙間がある。
これがもどかしいところだ。
もう少しで殿下と接することができるのに、と思う。
殿下と接して、そのやさしさをもっと味わっていきたい。
そして、抱きしめていただきたい。
さらに、
「リンデフィーヌさん、好きです」
「殿下のことが好きです」
と愛の言葉を交わして、唇と唇を重ね合わせたい……。
ああ、殿下。
わたしは殿下のことがどんどん好きになっています。
もしかすると、前世で会っているかもしれません。
そして、前世で結婚の約束をしていれば、とても素敵なことだと思います。
前世でのことは思い出すことができませんが、会ってすぐになつかしさを覚え、こうして好きになってきているのですから、殿下との縁はあると信じています。
わたしはこの想いを殿下に今伝えたいと思った。
しかし、思ってはいても、殿下と出会ってまもないわたしに、その想いを伝える気力は出てこない。
伝えることができないのならば、せめて殿下との隙間を埋めていきたいと思う。
埋めることができれば、抱きしめていただくところまではいかないにしても、殿下との心の距離は少し縮めることができると思う。
殿下の方から埋めてくださるといいんだけど……。
と思ってきて、わたしは急激に恥ずかしさに襲われた。
今日会ったばかりだと言うのに、どうしてすぐこういうことを思ってしまうのだろう。
こんなことを思っていたら、はしたない女性と思われて、嫌われてしまうのでは?
殿下はやさしい方なので、嫌われることはないかもしれない。
でも恋人にしたいとは思わなくなるかもしれない。
それは避けたいところだ。
いや、避けたいという問題ではない。
わたしの身分で、殿下と結婚などできるわけがないのだ。
とはいっても、殿下にはいい印象をもっていただいて、お別れをしたいと思っている。
たまにしか思い出すことはないかもしれない。
それでも思い出した時に。いい思い出になってもらえるとうれしい。
殿下と唇を重ね合わせたいというようなことは、想わないようにするべきだろう。
とにかく今は、殿下の隣にいるだけで幸せ。
その幸せをじっくりと味わっていきたい。
そう思っていると、急速に眠くなってきた。
それだけ緊張の連続で疲れていたということだろう。
殿下とこれから話をしていきたいところだったが、疲れには勝てない。
一度寝て、体力が少し回復したところで、話をすることにしたいと思う。
「殿下、申し訳ありません。眠くなってきました」
「疲れたでしょう。ゆっくり眠ってください」
やさしく言う殿下。
「ありがとうございます」
わたしはそう言うと、眠りに入っていった。
「面白い」
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