第四十三話 もう少しそばにいて、お話がしたい
歩けないことはないと思っている。
しかし、疲れで、気力はやや衰え気味。
できれば少し休みたいという気持ちは強い。
宿屋が近くにあるといいのにと思う。
そして、殿下の馬車に乗りたいという気持ちもある。
ただ疲れているから乗りたいということだけではない。
一緒に乗って王都まで行くことができれば、殿下とお話をすることができる。
ここから王都までであれば、今日の夕方まではかかる。
その間、少しでもお話をして、殿下の魅力を少しでも味わいたい。
素敵な人のそばで、少しでも夢を見たい。
王都まで行ってしまえば、そこでお別れということにはなるが、殿下との思い出は一生の宝物になるに違いない。
そういう夢想を少ししていたが、すぐに我に返った。
わたしは何を思っていたのだろう。
殿下に救けていただいただけではなく、馬車に乗せていただこうと思うなんて……。
我ながら厚かましいと思う。
そういうことを言ったら、やさしい殿下のことだから、受けてくれるかもしれない。
しかし、心の中では、
「わがままなお嬢さんだ」
と思ってしまうだろう。
それだけならまだいい。
なんといっても、今のわたしは貴族ではない。
身分差が大きい。
まだ殿下には、わたしが公爵家から追放されたことは伝えていない。
馬車に乗せてもらうからには、今の自分の状態を伝える必要があるだろう。
追放されて、貴族でないことを殿下に伝えても、殿下は馬車に乗せてくれるだろうか?
身分差が大きいのに、
「馬車に乗せてください」
とお願いをした場合、馬車に乗ることが難しくなると思う。
もし馬車に乗ることができたとしても、その後、嫌われてしまう可能性がある。
疲れはこの後、ますますたまっていくだろう。
休みながら行くつもりでいる。
しかし、この疲れ具合からすると、苦しくなって途中で歩けなくなるかもしれない。
その場合は、生命の危機が来る可能性もある。
それでも、殿下に嫌われるぐらいなら、歩けなくなる可能性があっても、歩いていくべきだろう。
気力でなんとか補っていくしかない。
とすれば、もう歩き始めないと、次の宿屋につく時間がどんどん遅れてしまう。
着くのが夜になってしまうと、それだけ身の危険が増すことになってしまう。
まして、今襲われたばかりなのだ。
わたしは、
「殿下、ありがとうございました。心から感謝したいと思います。それではこれで失礼したいと思います」
と頭を下げながら言った。
名残惜しい。
素敵な殿下。
もう少しそばにいて、お話がしたいと思う。
せっかく出会ったのだから……。
殿下は、初めて会った気がしない。
こうしてほんの少し話をしただけでも、懐かしい気持ちがどんどん湧いてくる。
どこかで絶対会っている気がする。
するのだけど……。
それ以上のことは、わからない。
どこで会ったのか、全く思い出すことができない。
幼い頃のことを思い出しても、会っている記憶はない。
この世で会ったことがないとすれば、前世で会っていることになるのだけど……。
そう思っていると、
「リンデフィーヌさん、あなたは疲れています。その体で王都まで歩くのは酷なことだと思います。よろしかったら、馬車に乗っていきませんか? 馬車は御覧の通り二台あります。わたしの馬車に一緒に乗っていただければいいと思います。もちろん無理にとは申しません」
と殿下が申し出てきた。
少し恥ずかしそうだ。
わたしのことを異性として少し意識してくれているのであればうれしい。
でもそれはきっと気のせいだろう。
殿下の方から馬車に乗ることをすすめていただいている。
これはとても助かることだし、うれしいことだった。
これから歩いていこうと決意はしていたけれど、やはり苦しさが先に立ってしまうといっていい。
そのお誘いに乗りたい、という気持ちにだんだんなってきた。
しかし、それでも殿下のお誘いを受けることは躊躇せざるをえなかった。
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