第四十二話 殿下とわたし
殿下とわたしは、今、向き合って話をしている。
つい先程までは想像もしなかったことだ。
それにしても、ハンサムなお方だ。
今までの戦いでも、その雄姿に心を動かされていた。
そして、こうして近くにくると、その端正さに、より一層心が動かされていく。
それだけではない。
まだ話をし始めた段階だというのに、懐かしく思う気持ちが湧いてくる。
前世で約束した方では?
そういう気持ちが湧き出してくる。
しかし、まだわからない。
なんといっても、わたしは婚約破棄をされた身。
マイセディナン殿下を「前世での約束した人」だと思い続け、結局は失敗してしまった人間だ。
慎重にいかなくては。
そういう気持ちが一方で湧いてくる。
「助けていただいて、ありがとうございました」
わたしは殿下に頭を下げた。
「いや、わたしは当然のことをしたまでです。困っている人は、救けなくてはいけないと思っていますので」
「普通だったらできないことだと思います。素敵なことだと思います」
「素敵なことだなんて……」
殿下は少し顔を赤くした。
わたしも言った後、少し恥ずかしくなった」
「お一人で旅をされているのですか?」
「そうです」
「それはさぞかし大変でしたでしょう。しかも賊に襲われて、とてもつらかっただろうと思います」
「殿下に救けていただかなければ、生命を失っていたと思います。わたしは殿下に生命を救われたのです。これほどありがたいことはないと思います」
「こちらこそ、そこまで感謝をしていただいて、ありがたいと思っています」
殿下の微笑み。
なんて素敵なんだろう。
これだけでも心がフワフワとしてくる。
「ところでお名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
恥ずかしそうに殿下が聞いてくる。
わたしの名前?
それを聞いてくるということは、どういうことなのだろう?
わたしに好意を持ったといいうことだろうか?
そうだとうれしいけど。
いや、好意とかそういうものではなくて、ただ単に名前が聞きたいだけではないだろうか?
期待をしてはいけない。
それに、もう貴族ではないわたしの名前を教えても……。
そう思っていると、
「せっかくここで会ったのですから、名前を教えてほしいと思いまして」
と殿下は言ってくる。
殿下が教えてほしいと言っているのだから、教えるべきだろう。
そう思い直した。
「わたしの名前はリンデフィーヌです」
「リンデフィーヌさんとおっしゃるのですか。どちらから参られたのですか?」
殿下が聞いてくる。
出身を教えるということは、自分が家から追放されたことも言わなくてはならなくなりそうだ。
しかし、殿下は、決してそういうことを気にするタイプではなさそうだと思った。
「ブリュノレンス王国のブルトソルボン公爵家から参りました」
「ブルトソルボン公爵家から参られたのですか?」
「そうでございます」
「わたしもブルトソルボン公爵家の名前は存じて上げています。ブリュノレンス王国の中でも指折りの名家ということですね。でもここから距離はだいぶ離れていると思います。この雪の中、よく一人で歩いてこられましたね。歩くだけでも相当疲れていると思います。賊に襲われて、なおさら疲れたのではないでしょうか? まだまだ歩かなければならないのでしょう? 大丈夫でしょうか?」
心配そうな殿下。
「王都を目指しているので、後もう少し歩ければ大丈夫だと思っています」
殿下にはそう言ったものの、賊の来襲から助かって安心したこともあり、疲れが急激に出てきていた。
「面白い」
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