第三十九話 男性の勝利を願うわたし
レチイドの全力を込めた斬り込み。
しかし、男性は、今度はそれをかわす。
「おのれ! なめやがって!」
いら立つレチイド。
「こんなことをしていても時間の無駄ですよ。隣にいる方と一緒に降伏してください」
「俺を子供扱いしやがって! いよいよもって腹が立つ! 絶対にお前を斬る!」
「言ってくれましたね」
「お前の方こそ土下座をして降伏をしたらどうだ!」
「断ります。降伏するのはあなたたちです」
「そんなにすぐ断っていいのか?」
「弱い者に剣を向け、イジメる人たち。わたしはこういう人たちと対決します。そして、常に弱い者の味方になります」
なんという威厳のある言葉だろう。
「そんな戯れ言、聞いていられんわ!」
レチイドは、また斬り込んでくる。
「なぜわたしの言うことが聞けないのです!」
男性は、レチイドの剣を受け止め、そのままレチイドの体ごと払う。
レチイドは、その場に倒れ込んだ。
ここまで力が強いとは……。
倒れたレチイドに、男性は剣を突きつける。
「剣を捨てなさい」
表情は厳しくはないのだが、声には、異論を絶対に許さないという厳しさがある。
「なんという力強さ……」
つぶやくレチイド。
そして、レチイドは渋々、
「これでいいんだろう」
と力なく言って剣を投げ捨てた。
先程のまでの威勢のよさはどこへやら。
男性の気力に、抵抗する力はもうなくなってしまったようだ。
「もう抵抗できなくなってしまったのか?」
ルンリックスはあきれたように言う。
それに対し、
「こいつの気力を全面に受けたら、お前だってそんなことは言っていられないぜ」
とレチイドは弱々しく言う。
「俺はお前みたいに弱くないぜ!」
とルンリックスは言うと、
「今度は俺が相手だ! 今までの相手とは違うんだ!」
と言って、男性に斬り込んでいく。
わたしはその瞬間、ルンリックスから解放された。
他の九人までが男性に倒されてしまったので、もうわたしどころではなくなったのだろう。
今までは剣を突きつけられて、いつ生命を失うかわからない状態だったので、緊張はしないようにしようと思ってもそれは難しく、緊張していたが、ようやく少しホッとする。
わたしは男性とルンリックスから距離を置くべく、その場から離れようとすると、
「お嬢さん、こちらです」
という声がする。
その男性の側近のようだ。
七十歳台であろうか。
体は強そうだ。
わたしは信頼できると思ったので、その側近のところへ行った。
「おケガはないですか?」
「大丈夫です」
「安心してください。きっとあの賊に勝ちますから」
側近は自信ありげに言う。
「ありがとうございます」
わたしはそう言って頭を下げた。
男性が勝てばこのまま自由になれる。
できれば男性が無傷で勝ってほしい。
そうなってほしい。
いや、それだけではない。
わたしはこの男性に対する好意がどんどん増してきていた。
今の状態で言うことではないかもしれない。
しかし、こういう状況で会うことになったということは、普通の出会い方ではないような気がする。
わたしたちは縁があるから、ここで出会ったのではないかと思う。
そして、男性は、敵を次々に撃破していってくれた。
その鮮やかさに、わたしの心は沸き立っていく。
まだこの男性はどういう方かはわからない。
しかし、その優雅さ、凛々しさからすると、素敵な方であると言えると思う。
前世で約束した方だろうか?
それはわからない。
でも、そうであると信じたい。
こうしてわたしを救おうとしている方だから、きっとそうだと思いたい。
それを信じて、少しずつ男性と仲良くなっていく。
そして、恋人どうしになり、やがては婚約、結婚へ……。
いや、そんなことを思っている場合ではない。
男性の剣とルンリックスの剣が激しく音を立てて斬り合っている。
わたしは男性の勝利を強く願っていた。
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