第三十七話 男性
わたしの人生は、この剣に斬られることによって終ろうとしている。
婚約破棄され、追放されたあげく、生命を失ってしまうのだ。
賊たちに、お金を差し出した方がよかったのだろうか?
いや、そんなことはない。
差し出したとしても、生きる時間が多少延びるだけのことだ。
どのみち所持金はその時点でなくなってしまう。
そうなれば、王都にたどりついたとしても、宿屋に泊まるお金はないし、食べ物も買うお金はないので、職につくまでの間に倒れてしまうだろう。
そして、賊にお金を差し出すことは、貴族としての誇りを捨てることになる。
そんなことになるぐらいなら、ここで生命を奪われた方がましだ。
お父様もお母様も、生命を失うこと自体は残念に思うだろう。
しかし、この選択については、決して間違ってはいないと思ってくれると信じている。
お父様、お母様、もうすぐそちらに参ります。よろしくお願いします。
そう思い、気持ちを整える。
ただ……。
一つだけ心残りがあった。
前世で約束をした方と恋仲になり、結婚するということ。
これが達成できなかったのは、とてもつらいことだった。
その方が殿下でないことは理解した。
でも、だとしたら、誰が前世で約束をした人だったのだろう?
今まで会った方の中に、そういう方がいたとは思えない。
その方とこれから会う予定になっていたのだろうか?
もしかすると、こういう生命の危機の時に救けてくれるかもしれない。
そうであるといいなあ、と思う。
そして、そのままわたしを恋人にして、結婚に向かっていくといいなあ、と思う。
いや、それはいくらなんでも夢想しすぎだろう。
しかし、ほんの少しではあるが、期待をしてしまう……。
そう思っていると、
「返事をしろ! 俺は怒っているんだ!」
とルンリックスは厳しい表情で言ってくる。
何度言われても返事は同じだ。
「あなたの要求には絶対に従いません」
これでもう、わたしの生命は失われてしまう。
でももうしょうがないことだ。
「ではお前の生命をいただく!」
剣が振り下ろされてくる。
これで、生命を失ったと思った瞬間!
「待ちなさい!」
威厳のある大きな声が聞こえてきた。
「誰だ! 俺のじゃまをしようとするのは!」
驚くルンリックス。
わたしに振り下ろされようとしていた剣は、向きを変え、声のした方向に向いた。
また助かった……。
一瞬そう思った。
しかし、また新しい賊がやってきたのかもしれない。
決して油断をしてはいけない、と思い直す。
わたしたちの近くには、馬車がいつの間にか止まっていた。
そこから歩いてくる一人の男性。
「あなたたちは、その剣でその方に何をしようとしているのですか?」
柔らかいながらも、凛とした声。
「何って、この女にお金を差し出せと言ったんだ。差し出せば生命を助けてやると言った。しかし、こいつはそれを聞かなかった。だから斬ろうとしているんだ」
「全く仕方のない人ですね」
「お前は何をしにきた? まさか俺たちの獲物を横取りにしにきたんじゃないだろうな?」
「そんなわけないでしょう。わたしはここを通りがかったのですが、あなたが女性に剣を向けているのを見て、この女性の生命を奪おうとしていると思いました。それで、助けたいと思ってここに来たんです」
「助けるだと? またふざけたことを言っているな!」
男性がやってきた後、わたしからルンリックスの剣は離れていたが、再び剣を向けられた。
剣を向けられても向けられなくても、周囲を賊に囲まれていて脱出はできない。
この男性の助けに期待をするしかなかった。
「ふざけたことは言っていません。わたしは、あなた方がこの女性の生命を奪う気持ちを捨てないのなら、戦うしかないと思います」
力強く話す男性。
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