第三十三話 九日目
主人の話は続く。
「とはいっても、無事に通っている人も多い。襲われている人は決して多くはない。だから今でもメインルートのままだ。でも襲われないという保証はない。山越えの道は、険しい山を越えなければならなくてつらいとは思うが、越えられないことはない。安全という面では山越えをすすめたいと思っている」
主人のアドバイスはありがたい。
わたしもしばし予定を変更すべきかどうかで悩んだ。
しかし、わたしの体力では、山越えは無理そうだった。
そこで倒れる可能性が強いと思うと、川沿いの道の方がよさそうだった。
賊の問題はあるが、無事に通っている人も多いという話だ。
わたしも無事に通れる方の人になることを期待するしかない。
「心配していただいてありがとうございます。でも体力に自信がないので、川沿いの道を行きたいと思います」
「お嬢さんなら険しい道も乗り越えられると思う。可能性が低いとはいえ、危険があるところは通ってほしくはないと思っている」
「今までの旅からすると、乗り越えるのは難しそうです。無事に通れることを信じてと思います」
宿屋で毎日夜、休んでいるとはいうものの、疲れはなかなか取れない。
とにかく足が痛い。
少しでも楽な道の方がいい。
「そこまで言うのなら仕方がないか……。行くからには、無事に王都にたどりつけることを願っている」
主人は穏やかにそう言った。
わたしはこうして、川沿いの道を進むことになった。
それから七日目、八日目と川沿いの道を進んだ。
風景を楽しむという意味では、なかなか素晴らしいものがある。
雪に覆われた山々、地表。
そこをかきわけるように流れて行くきれいな川。
時々激しくなり、周囲を白く染めていく雪。
眺めるだけなら、その美しさを長い時間味わうことができると思う。
しかし、現実は違う。
時々吹き付ける本降りの雪は、体を芯まで冷たくしていく。
今までもそうだったが、雪が深く積もっていると、足も思うように動かない。
とにかく次の宿屋を目指して、歩くのみだった。
他のことを思う余裕は全くなかった。
自分が婚約破棄されたことも、家から追放されたことも、思い返す余裕はないくらいだった。
ただ、それでも山越えの道を行くよりはましだと思った。
もし山越えの道を進んでいたら、この程度ではすまなかっただろうと思う。
今のところ、賊も襲ってくる様子はない。
この雪では、襲うこと自体難しいと思う。
このまま無事で行けるのではないか、ということを、雪に苦しみながら思っていた。
そして、今日九日目。
わたしは宿屋を出発した。
他にも宿屋に泊まっていた人たちはいたが、既に馬車で出発している。
この川沿いの道に入って以来、徒歩で進んでいる人はわたし一人しかいない。
寂しい気持ちも少しするし、馬車で行けたら楽でいいとは思うが、それは仕方がないことだと思っていた。
雪は止んでいた。
少し歩きやすくなったと思う。
このままいけば、今日の午後には、この川沿いの道を抜けることができそうだった。
そうすれば、後は平坦な道が多くなってくる。
もちろん平坦な道が多くなると言っても、王都まではまだ多少の丘はあるが、そこまでくればもう乗り切れるだろう。
後少しでこの歩く苦しみから脱出できそうだ!
そう思うと、わたしは少し気力が上がり始めてきていた。
しかし、それと同時に、王都に入ってからのことを心配し始めていた。
入ったらとにかく職を探さなければならない。
所持金がそれほどあるわけではないので、できれば一週間以内に決めたいところだ。
そう思ってわたしは歩いていた。
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