第二十八話 誰の見送りもない出発
わたしは屋敷の門の外に出て、歩き始めていた。
誰の見送りもない出発。
わたしには、幼い頃から仕えてくれた侍女がいた。
わたしによく尽くしてくれて、ありがたい存在だったのだけど……。
わたしが王宮から戻ってきて、部屋に閉じ込められた後、会うことは許されなかった。
一度でいいから会わせてほしい、と懇願をしても無理だった。
それがとても悲しい。
わたしに仕えてくれた侍女ですら会うことができない状況になっていたので、今まで仕事で協力していた側近たちとも、会うことは難しい状況だった。
お父様が生きておられた頃は、側近たちと一緒に公爵領を豊かにする為、協力して仕事をしていた。
わたしにどれだけ人望があったかどうかはわからないが、その人たちには少なくとも嫌われていることはなかったと思う。
そういった人たちは、お父様がこの世を去ると、新当主になった異母姉とその後見役である継母の為、あっという間にそばから遠ざけられてしまった。
屋敷には出仕しているのだが、公爵領の経営に直接関係する部門から外されている。
今まではそういう部門にいて、活躍していただけに、本人たちはつらいと思う。
側近たちとも、ここへ戻ってきてからは会うことができなかった。
それでもわたしは、今日ここを去る時、継母も異母姉も、見送るぐらいは許してくれそうな気がしていた。
それぐらいの人情は、さすがに二人にあると思っていた。
それで、誰か一人ぐらいは。見送ってくれるものと少し期待していた。
しかし、誰一人として来ていない。
わたしは継母や異母姉がそこまでの冷たい人だとは思いたくはなかった。
その為、もしかすると、わたしのことを嫌いとまではいかなくても、あまり好意を持っていない人もいたのかもしれない、ということを少し思っていた。
もしいたのであれば、当然のことながら、見送ることはなかっただろう。
でもすぐさま、そういう人は侍女や側近たちの中にはいないはずだ。と思い直した。
侍女は、
「わたしはお嬢様にいつもいたわっていただいて、ありがたく思っています。こんなにいたわっていただける方はいないと思います」
と褒めてくれていたし、側近たちも、
「公爵領は最近豊かになってきました。ここまで豊かになってきたのは、公爵閣下とお嬢様のお力だと思います。そして、お嬢様のアドバイスはいつも的確で、我々はいつも頭が下がる思いでございます。お嬢様、ありがとうございます。公爵閣下とお嬢様がいれば、今後ますます公爵領は発展して、豊かになっていくと思っています。我々もお二人の為、一生懸命努力して参ります」
と褒めてくれていた。
決してそれは、表面上の言葉ではないと思うし、わたしのことを嫌に思ったり、好意を持ったりしていなかったら、出てこない言葉だと思う。
もちろん、そう言われたからといって、浮ついて、おごり高ぶるつもりはなかった。
わたしなど、お父様に比べれば、まだまだの存在でしかない。
褒めてもらう度に。もっと自分を磨かなければいけない、と思ったものだった。
また、この言葉には、わたしへの信頼もあるように思えた。
わたしに好意をもたない人はいないようだし、信頼も持ってもらっていると思ってくると、ほとんどの人は、継母や異母姉に見送ることが禁じられた可能性が強いと思う。
二人はそこまで冷たい人だということを思いたくはなかった。
冷たい仕打ちをしてきたけれども、こういう時ぐらいはやさしさがあるのではないかとわずかな希望を持っていた。
しかし、それはどうやら無駄な希望だった。
わたしはつらくて悲しい気持ちになり、涙を流し始めた。
それでもわたしは歩かなくてはならなかった。
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