第二十七話 冬の日
わたしは殿下に婚約を破棄されてしまった。
そして今、この公爵家を追放されようとしている。
お父様との思い出がつまっていて、お母様がいたこの家。
まだ離れたくない。
もう少しここにいたい。
いたいのだけど……。
ドアをたたく音がする。
「お嬢様、お時間です。もうこれ以上ここにいることはできません」
執事がドア越しに声をかける。
もう出発の時がきたのだ。
「今、参ります」
わたしは力なくそう言った。
継母や異母姉は、執事と一緒にドアの前で待っていた。
わたしが準備を終えてドアを開けると、
「これでようやくあなたのことを忘れることができる。長く苦しい時間がやっと終わってこれほどうれしいことはない。どこへなりと行ってしまいなさい」
「こんなどうしょうもない妹のことなど、今すぐ忘れたい。いかにわたしが今まで苦しんできたことか、あなたにはわからないでしょう。それもやっと今日で終わる。うれしくてしょうがない」
と二人に厳しい言葉を言われた。
この人たちには、愛情というものがないのだろうか……。
わたしたちはこの公爵家の一員。家族だ。
それなのに、二人はどうしてここまでわたしに嫌な思いをするのだろう。
わたしは二人と仲良くしたくて、幼い頃から努力をしてきた。
継母にも異母姉にも敬意を払い、大切に思ってきた。
そして、お父様もこの世を去る時に、「三人仲良く」ということを強調されていた。
二人もそれをよく聞いていたはず。
でも二人は、そういうお父様の思いまで無駄にしている。
わたしはお父様の言うことをきちんと守り、二人と仲良くする努力をこれからもしていこうと思っていたのに……。
空しさがわたしの心を覆っていた。
冬の日の朝。
冷たい雨が先程まで降っていた。
今は止んでいるが、空は曇ったまま。
また雨が降るかもしれないし、気温が下がってきているので、今日はこのままだと雪になるかもしれない。
とにかく寒い。
わたしは、今までに想像もできなかった地味な旅装をしている。
そういう服装しかあたえてもらえなかったし、最低限の持ち物しかない。
所持していけるお金もそれほど多くはない。
「あなたのような人には、そういうみすぼらしい服がふさわしいわ」
「お母様の言う通りね。みすぼらしい服がこれほどふさわしいとは思わなかったわ」
と言って二人はわたしのことを笑っていたが、わたし自身は別にそうは思っていない。
もう貴族ではないのだから、服にこだわっていてもしょうがない。
寒さをある程度しのげればそれでいいと思っている。
わたしと執事と護衛は屋敷の門の前に来ていた。
「それではお嬢様、これでお別れです。これからのあなたは、もうこの家の人間ではありません。お嬢様とお呼びするのもこれが最後です。どこにでも好きなところに行ってください」
冷たい口調で話す執事。
この人は優秀ではあるが、淡々と仕事をこなすタイプで、人間味が少ないといっていい。
わたしがこの家を追放されることについても、特に何も思っていないようだ。
「今までありがとう」
それでも世話にはなっていたので、わたしはそう言って執事に頭を下げた。
執事は少しだけ悲しそうな表情をしたような気がした。
いくら人間味が少ないといっても、長年この家で一緒に暮らしてきた人だ。
わたしがこの家から追放されることに対して、悲しい気持ちがあると思いたい。
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