第二十六話 婚約者の座を異母姉に奪われてしまうわたし
お父様があの世に旅立った後、わたしはしばらくの間、悲しみで何もする気力がなかった。
このまま倒れてもいいと思うほどだった。
しかし、そうは言っていられない。
殿下の婚約者になった以上、王妃にふさわしい人間になるように、自分をもっと磨いていかなければならない。
悲しみはなかなかなくならないが、これからは婚約者として、王妃として生きていかなければならない。
そして、わたしは、お父様の言葉を心に刻み付けていた。
「とにかく冷たい仕打ちを受けても、やさしい心で接していきなさい。そうすれば、王室も多くの方々がお前を慕うようになるし、殿下もお前のことが好きになる」
お父様の期待に応えられるという自信はなかなか出てこない。
しかし、努力をしなければ、それこそお父様は悲しんでしまうだろう。
わたしは再び殿下のところへ行き始めた。
まだまだ悲しみはなくならない。
しかし、それではお父様の方も悲しんでしまうだろう。
悲しい気持ちを乗り越えて行く努力をし始めた。
そして、今までも心がけてはいたが、お父様の言葉を受けて、より一層やさしい心で接していくように心がけた。
すると、依然として王妃殿下や妹様は心を開いていないが、他の王室の方々が少しずつわたしに心を開き始めた。
殿下の方も、少しずつではあるものの、わたしと会話をする気が出てきたように思うし、笑顔になることも最初の頃よりは増えてきた気がする。
いい方向に向かいつつあるような気がしていた。
このままいけば、次の段階である、内政についてのアドバイスができそうだと思っていた。
アドバイスができるようになれば、ますます殿下や王室の方々と仲良くなることができて、国民の為にも働くことができるようになる。
そういう期待を持って、殿下のところに行っていた。
しかし……。
わたしが殿下や王室の方々に内政のアドバイスをする日が訪れることはなかった。
もう少し殿下と親しくなれば、アドバイスができるようになると思っていた時。
殿下は、わたしとの婚約を破棄し、異母姉との婚約を決めたのだった。
そのことを言われた時、あまりの運命の急展開に最初は言葉が出なかった。
まさか異母姉が婚約者の座をわたしから奪うとは思わなかったからだ。
殿下も少しずつわたしに好意を持ち始めたように思っていたし、異母姉に心が移っていたことなど、想像できるわけがなかった。
継母も異母姉も、殿下との仲が進んでいることなど全く思わせないような態度だった。
わたしに対する態度も全く変わらず冷たいままだった。
ただ、今思うと、婚約が決まった当時の二人は、
「ルアンチーヌこそ婚約者にふさわしい女性だというのに、なんであなたなんかが婚約者になるんだろう……。悔しくてしようがないわ」
「お母様の言う通りです。わたしの方が美しくて魅力があるのに。悔しい!」
とわたしに手厳しい言葉を言っていたが、最近は、そう言うことはほとんどなくなっていた。
冷たい態度に変化はなくても、こういう手厳しい言葉は使わなくなっていたというところが変化していた。
多分、殿下と異母姉の関係が進んでいき、わたしに嫉妬する意味がなくなってきたからだと思う。
しかし、当時のわたしはそういう変化に気がついていなかった。
もちろん気が付いていたとしても、殿下が異母姉に心が傾いていくことを止めることができたかどうかはわからない。
いずれにしてもわたしは異母姉に殿下を奪われてしまった。
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