第二十話 約束のお方
わたしは殿下の婚約者になった。
婚約者。
素敵な言葉であると思うし、いい言葉だと思う。
その言葉を思うだけで、心がときめいてくる。
こんな気持ちになったことは、今までない。
わたしは幼い頃から幸せな結婚にあこがれてきた。
また、わたしにも前世で結婚を約束した方がいる、ということを思うこともあった。
もちろん前世というものが存在するということは、わたしにはわからなかったので、そうであったらうれしいな、というぐらいの思いでしかなかった。
しかし、ライバルが強すぎてまずありえないと思っていた婚約が成立すると、殿下こそが前世で約束をした人ではないかと思うようになった。
殿下の今までの女性の扱い方は、気になるということは変わらない。
その点で、殿下は、わたしの約束した人ではない気はしていた。
しかし、それは、わたしと今まで会うことがなかったからだと思う。
わたしが殿下と約束をした人であるならば、お互いに一筋になるはずなので、もう他の女性に気を移すことはないだろうと思っていた。
いや、そうであってほしい。
わたしは舞踏会で殿下と踊ったとはいうものの、それはほんのわずかの間でしかなく、緊張していたので、殿下と上手に踊ることしか頭になかった。
その為、殿下が約束した方であるかどうかというところまで、心に思う余裕は全くなかった。
しかし、殿下の婚約者になったのだから、今度王宮に招かれた時は、殿下が約束の方であるかどうかを確かめることができる。
約束した方であってほしい。
そういう期待を胸に、殿下と会う為、数日後、王宮に行ったのだけど……。
殿下は、ハンサムな方だと思う。
わたしもその点では心がときめいた。
しかし……。
殿下と話を少ししたのだが、どうにも会話がうまくできない。
わたしは一生懸命殿下と話そうと努力するのだが、殿下が話に乗ってこない。
厳しい表情ではなかったが、わたしとの婚約に気乗りがしていないような気がした。
婚約はしているので、嫌だと思ってはいないと思うのだけど……。
前世で約束した方であれば、初めて会った時から、以前からの知り合いのように会話がにぎやかに進んでいき、すぐに相思相愛になるという話を聞いていた。
殿下は前世で約束した方ではないのでは。
もしそうだとしたら、婚約するべきではなかったのでは……。
王宮からの帰りの馬車の中で、わたしは落胆していた。
殿下とわたしは相思相愛どころかそれ以前の仲。
前世で約束した方でなかったのならば、このまま婚約を続けていいのだろうか?
こちらから婚約を破棄して、約束した方を待つべきではないか?
そう思ったりもしていた。
しかし、一方では、こうも思っていた。
一回会ったぐらいでは、約束した方であるかどうかはわからない。
約束したとしても、この世で会ったのは初めてなのだから、それを思い出せないのはむしろ当然だと思う。
これから付き合っていけば、お互いに約束したことを思い出すかもしれない。
それを待つことが大切。
二つの相反する思いが、わたしの心の中に浮かび、どちらの方向性で行くかどうかで悩んでいた。
自分の部屋についてからも悩み、夜寝る時も悩んでいたが、いつまで悩んでいてもしょうがない。
わたしは、これからの方向性を決めた。
こちらから婚約破棄することは、王室と公爵家の話になるのでできない。
できない以上は、殿下が約束した方であることを信じるしかないし、殿下の支えになっていくしかない。
そして、お互いが約束したことを思い出す日が来ることを信じたい。
いずれにしても、わたしは殿下の婚約者になった。
なったからには、殿下の為に尽くし、仲良くなっていきたいと思う。
そして、素敵な王妃として国民に慕われていきたいと思った。
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