第百二十八話 わたしはもう間に合わない (異母姉サイド)
殿下が修道院送りになったので、殿下との婚約を破棄されるとは思っていた。
しかし、どこかでそうならないのではないかという希望があった。
ゼリドマドロンもボイルマロール男爵家に帰らされる。
わたしたちの中では一番打撃が少ないと思うゼリドマドロン。
うらやましいと思うくらいぐらいだが、それでもうなだれながら泣いている。
わたしたちは国王陛下に命令された後も、哀願を続けた。
この時だけは、結果的に団結をした形になった。
しかし、国王陛下の心は動くことは全くなかった。
そして……。
「ではみなわたしの申しつけに従いなさい! 特にマイセディナン、わかったな!」
父国王の強い言葉。
その言葉の後国王陛下の側近たちが、殿下、そして殿下の母と妹、ゼリドマドロンの順番で、部屋の外に連れ出していく。
ゼリドマドロンは黙って去っていったが、殿下の母と妹は部屋から出される時も、
「我が子を王太子に戻してください! わたしたちに政治に参画させてください!」
「おにいさまこそ、王太子にふさわしいのでです!」
と言って泣いていたし、殿下は、
「お父上、なぜこんな酷い仕打ちを……。わたしは国王になるべき人間なのに……」
と言って泣き叫んでいた。
しかし、国王陛下は全く動じない。
部屋にはわたしだけとなった。
とはいっても、もうここを去らなくてはならない。
最後にもう一度殿下と話をしたい気持ちはなくはなかった。
しかし、今日の殿下の様子だとわたしのことを想う気持ちはなさそうだった。
王太子の地位を維持したいということしか頭になくて、わたしに対する配慮など全くなかった。
「ルアンチーヌよ、申し訳ない」
わたしは婚約を破棄されてしまった。
去り際に、それくらいのことは言ってほしかった。
こんな人を婚約者にしていたのだ。
自分が情けなくなる。
「ルアンチーヌよ。あなたも公爵家に帰りなさい」
国王陛下はそう冷たく言って席を立つ。
多分国王陛下もわたしに対していい思いを持っていなかったのだろう。
ねぎらいの言葉がほしかった。
「それではまいりましょう」
側近がわたしに声をかけてくる。
わたしは黙って従わざるをえなかった。
こうして、わたしの殿下の婚約者としての時はこれで終わりを告げた。
公爵家へ戻る馬車の中で、それを強く思うとともに、こんなことなら、殿下の婚約者にならなければよかったと思う気持ちがどんどん湧いてくる。
リンデフィーヌが婚約者のままでよかったのだ。
婚約破棄される直前には、評判が高まっていて、そのままいけばいい王妃になっていただろうと思う。
それは認めたくはなかったが、心の奥底にはずっとその思いが残っていた。
わたしは、結局評判は良くならないままだったし、毎日、殿下の母と妹の戦いを続けていたので、心はどんどん疲れる一方だった。
それに拍車をかけたのが、頼りの殿下に遊び相手を作られてしまったこと。
殿下には、わたしだけを相手にしてほしかったのだけど……。
わたしは、嫉妬することもできずに、心は疲れてどうにもならなくなっていた。
そして、婚約を破棄されてしまった。
今はもう悲しくてつらくて何もする気力がない。
公爵家についたらすぐに休みたい。
リンデフィーヌから婚約者の座を奪い、公爵家から追放したのは間違いだった。
そう思わざるをえなかった。
リンデフィーヌがそのままの状態であれば、わたしは心に傷を負うことはなかった。
こんな苦しくてみじめな思いをすることはなかった。
ああ、つらくてたまらない。
できるのであれば、殿下と出会う前の自分に戻りたい。
あの時に戻ることができたとすれば、今度は殿下の婚約者になることはないだろう。
でももう間に合わない。
わたしの目から涙がこぼれてきた。
「面白い」
「続きが気になる。続きを読みたい」
と思っていただきましたら、
下にあります☆☆☆☆☆から、作品への応援をお願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直に思っていただいた気持ちで、もちろん大丈夫です。
ブックマークもいただけるとうれしいです。
よろしくお願いいたします。