第百二十二話 わたしは間に合わない (マイセディナンサイド)
前世のわたしは、リンデフィーヌの前世であるリーゼアーヌのことを好きになっていた。
好きと言っても、恋というものではなく、それまでに付き合っていた十人以上の女性に対してと同じで、専有欲によるものだった。
リーゼアーヌは幼馴染のオディナデックスが好きで、相思相愛だという情報は入っていたが、わたしはそんなことは全く気にしない。
二人が愛し合っていようと何しようと、一旦自分のものだと思ったら、奪い取るまで。
そう思ったわたしは、公爵家の屋敷に何度も無理やり乗り込んで、婚約を迫った。
リーゼアーヌが嫌がろうと、そんなことはどうでもよかった。
ただリーゼアーヌを自分のものにしたかった。
しかし、それはオディナデックスによって打ち砕かれてしまった。
剣の達人であるオディナデックスに、わたしは手も足もでなかった。
悔しいわたしは、
「あきらめるしかないな。悔しい。いや、腹が立つ。今度俺が生まれ変わった時は、生まれ変わったリーゼアーヌを婚約者にした後、その婚約を破棄してやるつもりだ。お前をうれしがらせた後、絶望のドン底につき落としてやるつもりだ!」
と言い捨てて屋敷を去っていくしかなかった。
その時のわたしは、来世というものがあると思って、そう言ったわけではなかった。
悔しさのあまりの発言だった。
それだけわたしは、腹が立っていたいうことだ。
わたしはその後、数人の女性たちと付き合ったが、以前の十数人の女性たちの時と同じく、長続きはしなかった。
そして、全員と別れた。
別れたというより捨てたといった方がいいだろう。
最初はいいと思って付き合っても、その内飽きてしまうのだから仕方がない。
わたしはもともと贅沢好きだったが、リーゼアーヌの屋敷を去って以降、ますます贅沢をするようになった。
それで少しでも悔しさをまぎらわせようとしていた。
領民の負担は増え、苦しむことになっていったが、わたしは全く気にすることはなかった。
そういう贅沢な生活をしている内に、わたしは健康を害して病気になってしまった。
侍医は、贅沢をつつしまないと病気はどんどん進行すると言っていた。
しかし、わたしは病気でつらく苦しい思いをしても、贅沢をしなければ生きている意味はないと思う気持ちがどんどん強くなっていた。
侍医の言うことには一切耳を傾けることはなかった。
そのまま病気は進行していき、長生きすることなく、王太子のまま短い一生を終えた
しかし、わたしはリーゼアーヌと婚約ができなかった悔しい思いを前世で生きている間、ずっと強く持ち続けていた。
来世が存在するということはわからないままだった。
しかし、存在しなければ、わたしがリーゼアーヌに言った、
「絶望のドン底につき落としてやるつもりだ!」
という言葉は実現できない。
わたしは次第に、来世というものがあってほしいと思うようになってきた。
そして、
来世では絶対に、つらい思いをさせてやる!
と強く思うようになってきた。
その強い思いが、今世でわたしとリーゼアーヌを再会させて、婚約を破棄するチャンスを与えてくれたのではないかと思った。
それほどわたしは悔しい思いをしていた。
それが今世のわたしにも大きく影響しているのだと思う。
わたしは、今世のリーゼアーヌであるリンデフィーヌとの婚約を破棄し、そして、さらに公爵家から追放することによって、リーゼアーヌを絶望のドン底につき落とすことができた。
来世は存在していたのだし、わたしの前世からの思いは実現することができた。
その意味ではこれで良かったといえるのかもしれない。
いや、これで良かったのだろうか?
結局、わたしの今世の人生は、リーゼアーヌに対する悔しさによって左右されてしまったということになる。
なにか、自分の人生がつまらないもののように思えてくる。
複雑な気持ちだ。
そう思いながら、わたしの意識は今世に戻っていく。
わたしは今の意識を取り戻した。
前世での悔しさが、今世での人生に大きく影響していたわたし。
今までは全く思ってもみなかったことだった。
心の奥底にそういう強い気持ちがずっとあったのだろう。
婚約を破棄した時は、とてもうれしかった。
その時はわからなかったが、前世からの悔しさがあったからこそ、そのうれしさはひとしおだったのだと思う。
しかし、婚約破棄以降、わたしは次々に苦しみに襲われることになってしまった。
これはリンデフィーヌとの婚約破棄の影響だと思う。
リンデフィーヌはわたしを癒してくれていた気がする。
そういうことがわたしには理解できていなかった。
わたしがここまでの悔しさを持っていなければ、リンデフィーヌと今世で会うことはなかったかもしれないと思う。
それでもよかったのかもしれない。
前世でのリーゼアーヌに対する想いは、専有欲でしかなかったのだから。
恋をしていたわけではないので、強い悔しさを持っていなかったとしたら、来世でも再会したいと思うほどの強い執着はなかったと思う。
今世ではその専有欲もほとんどなかったといっていいだろう。
今世で初めて会った時も、心がときめくことは全くなかった。
適当に付き合って、ある程度経ったら、婚約を破棄しようと思っていた。
しかし、今にして想うと、わたしはリンデフィーヌのことを過小評価し過ぎていた。
わたしは、ルアンチーヌを婚約者として選び、ゼリドマドロンを遊び相手に選んでしまった。
この二人は、ゴージャスで好みだったし、楽しさを提供してくれた。
しかし、それだけのことだった。
リンデフィーヌはその点でははるかに二人に及ばなかったが、わたしのことをいつも大切に思っていたし、一生懸命尽くしてくれようとしていた。
もしリンデフィーヌと婚約した時点でリンデフィーヌの良さを理解していれば、いくら前世で悔しい思いをしたとしても、その思いを克服することができたと思う。
そして、父国王の言う通り、いい王妃になってくれたに違いない。
今頃になってその良さを理解するとは……。
でももう間に合わない。
「ではみなわたしの申しつけに従いなさい! 特にマイセディナン、わかったな!」
父国王の強い言葉。
わたしは涙を流しながら、従うしかなかった。
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