第百十九話 厳しい言葉 (マイセディナンサイド)
父国王は苦しさが増してきているようだ。
それでも話を続ける。
「マイセディナンよ。お前に申し渡すことがある。これは、わたしにとっても、お前にとっても、とてもつらいことだが、何を言われても動揺してはならぬぞ」
もしかすると、
「お前の持っている権限を縮小する」
以上のことだろうか?
まさかそんなことはあるまい、と思っていたのだが……。
「それではお前に申し渡すことにする。王太子マイセディナンは、民衆に圧制を行い、貴族たちにも恣意的な領地の加減を行った。これは王太子としてとてもふさわしくない行為である。このまま王太子にしておくことは難しいと判断したので、その位をブランザフィス公爵家トラヴィスナンに譲るものとする」
「王太子の位を譲る?」
わたしの中に大きな衝撃が走った。
全く予想もしていなかったことだ。
「トラヴィスナンは、わたしの曽祖父様の家系。わたしのお父上の子供はわたししかいないし、わたしの子供もお前しかいない。そうなるとトラヴィスナンしか後継者はいないのだ。もちろんそれだけではない。お前と違って高潔な人柄だ。そして有能な人物だ。きっといい政治をしてくれるに違いない」
高潔だろうが有能だろうが、王太子はトラヴィスナンではない。
このわたしだ!
わたしはそう叫びたくなった。
しかし、父国王はさらに続ける。
「マイセディナンは王太子の位を譲った後は、修道院に入ること」
今までで一番厳しい言葉。
「修道院に入る?」
わたしはこれ以上ないと思われる衝撃を受けた。
「我が子が王太子の位を譲らなければならないなんて……。冗談で申されているとしか思うことができません」
母王妃は語気を荒げて言う。
「おにいさまに対する仕打ち、冗談で申されているですね?」
妹も続く。
最近は仲違いもあったが、こういう時は、わたしの擁護をしてくれるようだ。
本心かどうかはしらないが、心に大きな打撃を受けたわたしにとっては、少しは助かる話だ。
しかし……。
「冗談などではない!」
それは一撃のもとに叩き潰された。
「お前は修道院行きだ。今まで民衆や貴族たちにしてきたことを反省しなさい。そして、お前が捨ててきた十人以上の女性たちにも、彼女たちは、お前の仕打ちで、今でも心に大きな傷を負ったままだそうだ。その人たちに対する仕打ちもよく反省しなさい」
父国王の厳しい言葉がわたしを絶望に追い込んでいく。
これでわたしはすべてを父国王に奪われた。
自然と涙がこぼれてきた。
「父上、あんまりです。実の子供に向かって、王太子の位を譲れとか、修道院に入れ、などと言うのは。どうか、思いとどまってください。もう一度チャンスをください!」
わたしは生まれてからほとんど下げたことのない頭を下げた。
屈辱だった。
「どうか、王太子の地位をそのままにしてください!」
四人はそれぞれ父国王に哀願するが、
「お前たちにそののことをいう権利はない!」
と一蹴した。
つらそうではあったが、まだ気力は残っている。
四人たちが黙った後、父国王は、四人にそれぞれ話をし始めた。
わたしは、つらくて悲しくて、心が痛くてたまらなかった。
しかし、それでも父国王と四人のやり取りは聞こえてくる。
「まず我が妻よ。お前は今までわたしに尽くしてくれた。それには礼を言わなければならない。しかし、そんなお前でも権力を目の前にすると変わってしまうのだな。そして、度を越した贅沢を始めてしまうとは……。わたしはそれが悲しい」
と母王妃に言った。
うなだれて聞いている母王妃。
続いて、
「次に我が娘よ。お前も権力を目の前にして変わってしまったのだな。母と同じで。父は悲しいよ」
と妹に言う。
妹もうなだれながら聞いている。。
「後継ぎはトラヴィスナンに決定した。したがって、お前たち二人に権力を握るチャンスはない。これからは、権力とは全く関係のないところで生きるのだ」
父国王がそう言うと、
「そんな……」
「この王国はわたしたちが動かすことができるものと思っていたのに……」
二人も大きな打撃を受けているようだ。
涙を流し、机に倒れ込んでいる。
これは仕方がないと思っていた。
わたしと二人は、結局一心同体だったということなのだろう。
「面白い」
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