乱舞-7
『第3コーナーを通過!
浦河美幸とドリームメーカーが先頭!
まだまだ後ろは7馬身程あります!』
レースは直線に入ろうとしていた。
瑤子はコナンのレースを見ている時はいつも泣いている。
数日前、俺と瑤子は二人で食事に出かけた。
その時に瑤子が俺に言ったんだ。
「コナンのレース中はずっと泣いている」
と。
「どうして?」
って訪ねたら、
「私がコナンに会いに育成施設に毎週行ってたの覚えてる?」
そりゃ覚えてるよ。先方からコナンが暴れるから瑤子を来させるなって苦情がきたもん。
「私はいつもコナンに語りかけてたの…
がんばれって…。
がんばらないと牧場に帰ってこれないよって…。
コナンはいつも私の眼を見て…そして鼻先をすりよせてくるの。
わかったよ…って。
もしも…もしもコナンが牧場に帰るために一生懸命走っていると思うと涙がとまらない…。』
コナンなら有り得る。アイツの気合いたっぷりの勝負に賭ける意気込みは、瑤子の待つうちの牧場に帰るためなのだ。
俺はこの時に初めて瑤子に、はじめからコナンをうちの牧場に帰すつもりだったと告げた。
ファンタジア専用の厩舎をコナンのために残してあるのだ。
瑤子は、そりゃもう喜んだ。
しかし、まだコナンには言っちゃ駄目だって瑤子に言った。
だって安心して走らなくなるかもしれないだろ?
俺の言葉に瑤子は大笑いした。
きっと俺達の話を他人が聞いたら、まさか馬の話とは思うまい。
でも実は俺はコナンに嫉妬していた。俺はまだおまえ程、瑤子に愛されていない…。
『さぁドリームメーカーが先頭で直線に入った!
シュバルツが一気に前に詰めてきた!
デーモンヒルもいい脚だ!
残り500!
ドリームメーカーがまだ5馬身のリードだ!
さぁ!ドリームメーカーと浦河美幸!
まだまだ勢いは劣ろえません!
前しか見ていないぞドリームメーカー!
しかしシュバルツが来たぞ!
デーモンヒルも並んでやってきた!
イーグルショットはまだ後方!
サーチベルガにムチが入った!
残り400!
ドリームメーカーまだ粘っているぞ!
シュバルツが2馬身差まで来ている!
デーモンヒルに原田のムチが入ったぞ!
一気にサーチベルガが脚を伸ばして4番手!
ドリームメーカーはちょっとキツイか!?
シュバルツが並ぶ勢いだ!
デーモンヒルも伸びている!
しかし…
しかしドリームメーカー譲らない!
シュバルツは1馬身まで詰めているがドリームメーカーまだ粘っている!
サーチベルガが一気にやってきた!
ドリームメーカーまだ先頭!
シュバルツにムチが入るが縮まらない!
残り200!
デーモンヒルは脚が止まった!?
先頭はドリームメーカー!
シュバルツは並べるか!?
外から!外から!外からサーチベルガが飛んで来たぞ!』
「コナンがんばって…!」
瑤子の声にならない声援。
「コナン!ワレそこから堪えんかコラァ!」
宝田も必死に声を張り上げた。
「コナン!がんばれ!コナン!コナン…!」
俺ももう無我夢中で声を出していた。