飛翔-2
その夜、高橋氏と俺たちいつもの三人で居酒屋純ちゃんに飲みに行った。
「高橋さん、デビルカッターの調子はどないですか~?」
宝田が今、日本中の競馬ファンが聞きたい話題に踏み込んだ。
「かなりいいよ。サンクルー大賞(仏 GⅠ)では凄い走りを見せれると思うよ」
高橋氏は笑顔で答える。
「じゃあキングジョージと凱旋門もいただきですね~!」
瑤子が日本中の競馬ファンを代表して言った。
しかし高橋氏の反応はイマイチだ。
「キングジョージと凱旋門はちょっとキツいかもしれないな。」
「ええ~!?なんでですか!?」
俺が日本中の競馬ファンを代表して驚いた。
「先日のイギリスダービーは見たかい?
あの勝ったブレイブハートはかなり強敵だよ。」
前にホースニュースに載っていた奇跡の馬だ。
「デビルカッターよりも強いんですか?」
瑤子が好奇心旺盛な顔で聞いた。
「強いかもしれないね。それにやはり不利もあるし。」
不利って…?
「斤量でんな…」
宝田が悟ったように言った。
「やはりキングジョージや凱旋門は3歳時に挑戦すべきだ。」
じゃあなんで昨年走らせなかったんだろう?
「デビルカッターは昨年、日本での馬主資格を得て初年度だったダーリージャパンをアピールする為に日本で走らせたからね。
まぁ今年のワールドツアーも一種のパフォーマンスみたいなものさ。
もちろん勝つ為の努力はスタッフたちがやってくれるだろうが…」
例えデビルカッターがキングジョージや凱旋門で負けたって今の評価が下がる事はないだろう。
でも俺は少し悔しい気持ちになった。
キングジョージや凱旋門賞制覇は日本競馬の夢だから。
デビルカッターはマル外かもしれないが、日本代表として走るのだ。
本当に勝って欲しい。