鎮静歌-9
「さぁどうする?」
村木はドリームメーカーに語りかけた。
半馬身で粘っているが、この半馬身を差す力はもうドリームメーカーに残っていそうもない。
「どうしたドリームメーカー!おまえは一生あのグレーのケツを見て走るつもりか!?吠えろ!そして絶対あいつに勝つんだ!」
村木は叫んだ。
「怒れドリームメーカー!」
村木は初めてムチを打った。
「フンガーーー!」
一気にドリームメーカーはドラゴンウイングに並んだ!
「そうだ!それがおまえの爆発力だ!」
村木はさらにムチを入れる。
「ウリリリーーーー!」
ドラゴンウイングはいっぱいだった。
ドリームメーカーが頭ひとつ前にでた。
ドリームメーカーの4着が決まった。
しかし値千金の4着。今後の進化に、このドラゴンウイングへの勝利がなによりもの起爆となるだろう。
村木は前方を見た…。
すでに決着がついているようだ。
(秋は浦河と絶対に菊をとってくれよ…俺はまた障害でがんばるよ…
ありがとうドリームメーカー…
ダービーに乗るのが夢だったんだ…。)
ゴール後、村木はドリームメーカーの首筋を撫でた。
残り100m!
俺は立ち上がった。
さっきから見えるんだ…
ファンタジスタの隣でファンタジアも一緒に走る姿が…。
ファンタジスタがんばれ…
おまえのお母さんはそこから差す凄い馬だったんだぞ…
『さぁロンバルディアか?ユリノアマゾンか?ファンタジスタはちょっとキツイか!?』
その額の流星は、おまえのおばあちゃん…ダンステリアっていう女王から引き継いだもんなんだぞ…
『さぁファンタジスタに滝のムチが入った!』
「ファンタジスタァァァーーーー!
来ーーーーい!!!」
『一気にファンタジスタが前に出た!
ファンタジスタが2頭をかわした!』
俺は天を仰いだ…
ファンタジア見てるかい…
おまえの息子が…
おまえの息子が…
『ファンタジスタ1着でゴール!!!
ファンタジスタがダービーを制覇しました!』
おまえの息子がダービー勝ったぞ……!!!
俺は生産者の表彰台に登った。
隣の表彰台に登った馬主の春文は号泣していた。
俺はダービー馬を生産したんだ。
目頭が熱くなってきた。
生まれたばかりのビンゴを抱きしめてから3年。
俺にこの仕事で食っていく決意をさせたあの夜。
思い出すとさらに泣けてくる。
今俺は日本の生産者が最も憧れる場所に立っているのだ。
さぁ!日本中のみなさん!笑いたくば笑え!今から俺は思いっきり泣くぞ!
東京競馬場で号泣した。
レース終了後、テレビで観戦していた宝田はファンタジア専用厩舎にいた。主を亡くした厩舎は寂しくたたずんでいる。
ファンタジア…やったで…ファンタジスタがやりおったで…
この男もまたファンタジアを愛していた一人だった。
アムロは今年牧場に帰ってきたドルフィンリングが母親代りとなっていた。いや…ドルフィンリングだけではなく牧場のスタッフ全員が親代りだ。
ファンタジア最後の子供は元気にスクスク育っている。