鎮静歌-3
『1番人気で迎えたドリームメーカー!
今日は少し落ち着いた様子を見せております。』
たしかにいつものドリームメーカーらしい荒々しさは感じられなかった。
『さぁ!枠入りが始まっております。
おっとドリームメーカーが動きません。』
デビュー戦のようにゲートに入る直前で立ち止まるドリームメーカー。
「ムーーーー……」
低い声で空に鳴いた。
それは悲しげで哀愁漂う姿だった。
宝田が思い出したように言った。
「そう言えば…こいつが小さい頃、母のフォーリンレインの乳だけじゃ物足らなくて、ビンゴを押し退けてファンタジアの乳も吸っとりましたな…」
ガキの頃に世話になった3つ隣の馬房に住むツレのオカンの死を悲しんでるって言うのか?
息子のビンゴ本人だって知らん事を…。
いや…本当のところはわからない。でもそんな気がしたんだ…。俺も宝田も…。
「ムーーーー…」
まるで鎮静歌<レクイエム>のようなドリームメーカーの嘆き。
しかし突然
「ウリリリーリーーー!」
と吠えた!
そうでなくっちゃ!
空に向かって何かの誓いを立てたドリームメーカーは逆に係員を引きずるようにゲートに入っていった。
『ドリームメーカー入って…体勢完了!
京都新聞杯…
スタートしました!』
抜群のスタートでハナをきったドリームメーカー!
『真っ赤なボディーで疾走します!
本日1番人気ドリームメーカー!』
エンジンぶるぶる絶好調!
『さぁ直線!
ドリームメーカーまったくペースが落ちない!
馬場のど真ん中を堂々と!ふてぶてしく!
大差をつけて…
ゴール!
ドリームメーカー重賞初制覇!
浦河美幸も重賞初制覇!
賞金的にもダービー出走は確実です!』
ゴールした後、ドリームメーカーはまた空に向かって鳴いた。
まるでファンタジアにこの勝利を捧げるとでも言いたそうな…。
何度も言うが、そんな気がするだけだ。
でもそんな気にさせるんだこいつは…。
ありがとうコナン…。
俺は勝手な思い込みで勝手に礼を言った。
浦河美幸騎手の初重賞制覇コメント
『ありがとうございます…うっ…うれしいです…うっ…うわ~ん』
武田調教師のコメント
『1番人気になった時は正直困った。しかしまさか勝てるとは…この馬は底が見えない。』
馬主代理の菱田瑤子さんのコメント
『この仔はやればできる仔なんです!』
次走はもちろん日本ダービーだ。