鎮静歌-1
その日、俺は早朝ファンタジアとアムロに飼餌を与え放牧に出した。
昼の作業を終えて天皇賞(春)を観戦した。
デーモンヒルの見事な勝利。
原田成二の勝利の投げキッスで盛大に盛り上がった。
その後、スタッフでミーティングという名の雑談。
突然、仔馬の悲鳴のような鳴き声が響きわたった。
「あの鳴き声はアムロじゃない!?」
瑤子は言い終えるより早く席を立ち外に駆け出した。
そして俺たちも後に続く。
遠くで数人の若者らしき後ろ姿が走り去るのが見えた。
アムロは今も鳴き続けている。
となりで立っているファンタジア。
「………!?」
その姿を見た俺は言葉がでなかった…。
「なんて事してくれよったんやっ!!」
宝田がファンタジアに駆け寄る。
バイトの二人は軽トラで逃げ去った若者たちを追い掛けた。
瑤子は真っ青な顔で取り乱すアムロを抑えていた。
「社長!なにしてまんのや!!早くファンタジアを抑えてください!!」
宝田に怒鳴られ我に帰った俺はすぐに激痛で暴れだすファンタジアを抑えた。
俺はファンタジアを間近で見てそれが絶望的である事がわかった…。
ファンタジアの左前脚から骨が突き出ている。
宝田が俺と目を合わせた。
言葉はない。
しかし宝田のこの目の意味は理解できた。
「いや……」
瑤子の涙混じりの声が胸を刺した。
俺は苦しむファンタジアの瞳を見た。
だめだ…涙が止まらない…。
「社長…早く楽にさしたりましょ…」
宝田も泣いていた。
俺の頷きを確認した宝田は医療施設へ走っていった。
宝田が帰ってきた時、突然ファンタジアは暴れるのをやめた。
そして俺の腕に噛みついた。
アマ噛みで…。
最期の時を悟ったこの馬は傍らにいる仔馬ではなく…俺に別れの挨拶をしたんだ…。
宝田は医療施設から持ってきた鞄から注射器を取りだし、
さよなら…
囁くように涙声で語りかけ…ファンタジアに注射器の針を刺した。
崩れ落ちるように倒れるファンタジア。
しかし…まるで寝ているような顔で旅立っていった。
「ファンタジア…
……
ファンタジアァァァァーーーーーー!!!!!」
突然の悲劇だった。