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【10万PV!!】 競馬小説ドリームメーカー  作者: 泉水遊馬
シーズン1 chapter5
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爆心-6

記念すべき馬主としての1勝目だが、俺も宝田もクタクタになっていた。

あいつは今後も俺達にあんなレースを見せるつもりなのか…


しかし…こんなにも心地いい疲労感ならいいかもしれない。


「次はファンタジスタでんな~」


そうなんだ…今日はもうひとつ重要なレースがあるのだ。


「宝田さん…悪いけど時間まで横になるわ…」

どうぞどうぞと宝田は笑って作業に戻った。

俺は自室のベッドで横になった。




瑤子は飛田牧場へと勝利報告の電話をしたが誰もでない。

(昼の作業に戻ってるのかしら?)


携帯電話をかばんにしまい席に戻ろうとしたところで、龍田仁とバッタリ会った。


「なんだ、飛田のとこの秘書じゃないか?今日は飛田は来てないのか?」


「龍田社長こんにちは。うちの社長は今日は留守番です」


「アハハハ!そうか、まぁ来たところで…えっとファンタジスタとか言ったか?そんな馬が我がドラゴンウイングに勝てるわけないからな~」


瑤子は冷静だ。過去の馬主秘書経験からこの程度の皮肉をいう馬主にはたくさん会ってきている。


「今日は勉強させていただきます。ただ生産者代表代理としてファンタジスタの馬主様の吉野春文社長に勝っていただきたいですし、それに…」

瑤子がメインレースの現在のオッズを表示したモニターを指差した。

「どうもファンタジスタの方が人気になってるみたいですわ」


龍田はフンと鼻を鳴らして去っていった。


瑤子の勝ち!




春文のとなりに座り先程の龍田とのやりとりを話した。


「龍田くんのその時の顔見たかったな~」

春文は喜んでいる。


「ファンタジスタ…勝ちますよね?」

瑤子の問いに

「負けませんよ!」

春文は力強く答えた。


ラジオNIKKEI杯2歳ステークス(GⅢ 阪神競馬場 芝2000m)のパドックが始まった。

留守番組の俺と宝田は再びテレビの前に集まった。


『来年のクラシックを見据える大事なレースとなります。14頭立てのラジオNIKKEI杯2歳ステークス。

現在1番人気のファンタジスタは非常に落ち着いた様子。

2番人気のドラゴンウイングは少しイレ込んではいますが特に問題はなさそうです。

両陣営万全の仕上げと言ったところでしょうか』



突然うちの電話が鳴った。龍田だ。

「あれはイレ込んでるんじゃない!溢れんばかりの闘志が今…まさに…爆発しようとしているんだ!」

そして切れた。そんな事を伝えにわざわざ電話かけてきたのか…。


『さぁ騎手が各馬に股がります。ファンタジスタに滝豊。ドラゴンウイングには安東勝己。来年のダービー馬候補が早くも激突します!』



そう…もうクラシックへの戦いは始まっているのだ。

そしてこのレースは来年への最重要レースのひとつである。




『さぁ来年へ向けて若駒が走ります!

各馬ゲームに入りまして…



スタートしました!』


行け!ビンゴ!



『ドラゴンウイングが一気に先頭に立ちます!


ファンタジスタは中団待機!


両馬とも得意の位置取りです!』


逃げるドラゴンウイング、脚を溜めるファンタジスタ…


あの時と一緒だ…

もう10年ぐらい前の秋華賞。

ドラゴンウイングの母ドラゴンベリーが逃げ、ファンタジスタの母ファンタジアが後ろから追ったレース。


ファンタジアは惜しくも届かず二着。ドラゴンベリーは牝馬三冠を手にした。


ファンタジスタ!母の無念を晴らせ!



昔の因縁を思い出した俺の体温は、急激に上昇していた。


『ドラゴンウイングは2馬身のリード!

まずは1000mを通過します!芦毛の馬体に安東勝己を乗せて、兄のアローを超える走りを見せて欲しい!


ファンタジスタは中団中程。どのタイミングで追い出してくるか楽しみです!天才滝豊が惚れ込んだファンタジスタ!今はまだその時を馬群で狙っています!』


それにしても…いい馬体だ…。

俺はファンタジスタの走る姿に惚れ惚れした。

「さぁそろそろ滝が動きまっせ!」

宝田が言った。


『第3コーナーに入りドラゴンウイングが先頭!

ファンタジスタが上がってきたぞ!

ファンタジスタが馬群の先頭に躍り出た!


最終コーナーで2頭並んだ!


2頭並んだまま直線に入った!』


ファンタジスタは早めの捲り。直線手前でドラゴンウウイングに並んだ。


『これはいいレースになった!

先にドラゴンウイングにムチが入った!

これは2頭のマッチレースだ!

ファンタジスタにもムチが入る!

2頭併せたまま200mを切った!

さぁこれは追い比べだ!

並んだら強いぞドラゴンウイング!

勢いはファンタジスタか!?』


おい豊!併せちゃダメだ!


『ドラゴンウイングが頭ひとつ出たぞ!ファンタジスタも必死についている!』


おい豊!


「よし!」

宝田が言った。


よしって…負けそうなんだぞ!?


『残り100!このままドラゴンウイングか!?』


まずい!?このままじゃ負ける!?


「こっからでっせ!前を追ってからが本領発揮です!」

宝田がさらにボリュームを上げて叫んだ。


俺は宝田の声に反応して、ファンタジスタ…いや滝豊に視点を集中させた。


滝豊のムチがファンタジスタを叩く。



あたりにもあっさりとした結末だった。


『豊のムチが入ったファンタジスタ!ドラゴンウイングをかわしてゴール!』


グンッと一伸び、凄い加速力だ。


「ファンタジスタの武器は一瞬の切れ味ですわ。デビュー戦の時同様にその脚を出すタイミングが難しい。そしてその武器が1番発揮されるのは前の馬を追った時ですわ。まるでシンザンのようにね。」


改めて考えるとおもしろい話だ。馬の集団性を人間が利用するというのだから。

それも競馬のおもしろさだが。



宝田はこうも付け加えた。

「おそらくファンタジスタはこれからもこういうチョイ勝ちになりますよ。大差でちぎるレースは向きませんわ」


電話が鳴った。

おそらく瑤子だろう。


「龍田だ!いいか!今日はちょっとイレ込んでたから負けたが次は必ず勝ーーつ!」

そして切れた。

結局イレ込んでたんじゃないか…。


ファンタジスタ陣営

滝豊騎手のコメント

『見ている人にはちょっと危なく感じるかもしれないが、あの勝ち方がベスト。

それにしても反応が凄くいい。ギアの入りが早いから一気にMAXスピードまで加速できる。大した馬です』



臼井調教師のコメント

『素直な馬だから即座に騎手の指示に従える。やはり追わすといい脚を使ってくれるね』


ドラゴンウイング陣営

安東勝己騎手のコメント

『まだまだ子供。来年の本番には成長してるだろう。今日の時点では相手が一枚上手だった。』


龍田仁氏のコメント

『負けた?キミはなにを言っているんだ!?負けてなんかいない!

おっと携帯が…ちょっと失礼…(足早に去っていった)』



ファンタジスタの次走は弥生賞。

ドラゴンウイングは若葉ステークスだ。




長い1日だった…。


しかしドルフィンリングは三着。

ドリームメーカーはデビュー戦勝利。

ファンタジスタは重賞制覇。

素晴らしい1日だ。


明日の有馬記念で今年も終り。

来年は俺の馬がクラシック出走だ!



早く瑤子帰ってこないかな…。


瑤子はしばらく東京の実家に滞在後、年明け帰ってくる予定だ。

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