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【10万PV!!】 競馬小説ドリームメーカー  作者: 泉水遊馬
シーズン6 chapter FINAL
359/364

そして…未来へ-2

5

12月四週、土曜日。

中山大障害(J・GI)

「おーーーーっと!1頭落馬!

1番人気ビリーザキッドが前のめりに転倒!

鞍上、村木は倒れたまま動かない!」


阪神競馬場での最終レースを終えた美幸は、一年のスケジュールをすべて完了させた安堵の中にいた。

有馬記念への騎乗依頼はあったが、すべて断った。

お手馬が出走しないグランプリレースは自分のステージではないと判断した美幸は騎乗をあきらめたのだ。


(明日は有馬記念をテレビで見て、年末年始はイギリスの自宅でゆっくりしよう。)

帰り支度を済ませ、阪神競馬場を出ようとしたとき、競馬場職員に呼び止められた。

「浦河騎手、中山競馬場からお電話です。」

美幸は案内されるまま事務室へ行き、受話器をとった。


「浦河騎手・・・一生の頼みじゃ。今すぐ中山へ来てくれ。」

受話器の向こうから聞こえてきたのは武田のいつもとは違う細い声であった。



美幸は村木の落馬を知っていた。阪神競馬場のモニターでレースも見ていた。

だから武田からの電話の意味は悟っていた。

しかし自分の信念には逆らいたくない。ドリームメーカーにはもう乗らないと決めたのだ。

それを直接伝えるために阪神競馬場から中山競馬場へとやってきた。


美幸を出迎えた原と武田に「乗るつもりはない」と意思を伝え深々と頭を下げた。


頭を上げた美幸の視界に両足をひざまずいた武田の姿が映った。

「武田先生!?」

思わず叫んだ美幸に武田は、

「浦河騎手。この老いぼれは今の今まで誰かに頭なんぞ下げたことは一度もない。それがわしの信念だったからだ。だがな・・・今日はそれを捨てる。

頼む・・・ドリームメーカーに乗ってくれ!」

言い終わると両手をついて頭をさげた。


武田に駆け寄った美幸は土下座している老体を起き上がらせた。

向かい合った武田の苦渋の瞳に美幸は軽く深呼吸をして口を開いた。

「わかりました。でもひとつ条件があります。」


「条件とは?」


「私の騎乗をします。けっしてドリームメーカーに合わせません。

私の腕で勝たせます。それでもよろしいですか?」


美幸の厳しい口調に武田に対する遠慮は一切なかった。武田の土下座で決断を迫られた美幸は、一瞬にして腹をくくった。もう美幸しかドリームメーカーに乗れる騎手がいないのもわかっていた。


「それでいい。お前さんの好きにしてくれ。」

逆に武田は優しい声色で返事をした。

横で事を見守っていた原は「あの時と同じでスね。」とつぶやいた。


あの時・・・それはドリームメーカーのデビュー戦。

村木の落馬で始まった物語。

歴史は繰り返される。


「ところで村木さんの怪我の具合は?」

美幸が思い出したように原に聞いた。

「大丈夫っス。軽い脳震盪と肩の骨にヒビが入ったぐらいなんで2週間ぐらいで復帰できまスよ。」


それを聞いた美幸は安堵の表情で頭を下げ、調整ルームへと向かった。


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