そして…未来へ-1
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ホースニュース
ゾディアックとプロミネンスが有馬記念参戦!
ビッグニュースが飛び込んだ。世界の芝路線最強の2頭が日本の競馬のグランプリ有馬記念への参戦を表明した。
これは国際レースとして外国馬枠を利用した出走となる。
この2頭の参戦までの経緯を説明しよう。
11月初頭、プロミネンスの年内引退がドバイ・ダーリー本部ゴドルファンより発表された。そして来年からダーリージャパンスタッドで種牡馬生活に入ることが決まっている。ロンバルディアの後継馬として大きな期待がかかっている。
ここでダーリーから一つの提案がアメリカ・ゾディアック陣営へと送られた。
世界最強を決める舞台として有馬記念を指定してきたのだ。
1勝1敗1分の2頭。先のBCターフでつけることができなかった決着を、日本でつけようということだ。
だが、このレースには来年から日本で種牡馬となるプロミネンスの走りを、日本の顧客に見せておきたいというビジネスをはらんだドバイの思惑が明らかに見えた。
もちろんこれはゾディアック側からすれば到底受けることのできない提案であった。
それはリスクの問題である。アメリカから日本への遠征は馬に大きな負担をかける事になる。ゾディアックも今年はドバイ、イギリス、フランスと転戦し続け、母国アメリカ・BCターフで今シーズンを終えているのだ。
BCターフで回避したプロミネンスと比べ、ゾディアックは前走から2か月で太平洋を越える準備をしなくてはならない。また日本での検疫も考えれば時間が足りな過ぎた。
現実的に不可能なレースなのである。
しかし、ドバイから提示されたゾディアックの出走条件が提案された直後、ゾディアック陣営は一気に日本へと向かう準備を開始した。
以下は様々な項目の中から主だったものだけ抜粋する。
1輸送はダーリーのチャーター便にて行われる。
2滞在施設は世界最高レベルの設備を持つ、ダーリー・ジャパン関連施設。
3馬やスタッフの輸送や滞在費用は全てダーリーの負担。
4日本入国時の検疫による拘束の緩和。
1~3はダーリーの熱意や誠意が見てとれるが、問題は4だ。
これはダーリーがなんとかできる問題ではない。日本の政府の問題だからだ。
しかし現在の日本経済の救世主となったドバイの要請であれば日本政府は呑まないわけにはいかないだろう。
おそらくドバイと日本政府間での合意がなされたものと思われる。
これによってある程度の問題をクリアしたゾディアック陣営は、世界最強の座を掴むため日本の地に12月一週に降り立ち、現在ダーリー施設内にて調整が続けられている。
これを迎える日本陣営は絶対に負けられない。
人気投票1位のドラゴンアマゾンは回避。ジャパンカップ・ダートの激戦後、休養に入った。
2位シューティングレイ。
3位アルバトロス。
4位デビルマンの上位3頭は出走を表明。
5位のオメガフライトは香港カップ参戦のため回避。
6位のストライクドリームと7位のドリームメーカーも出走予定。
8位のセキトバも出走。
9位ユリノファンタジーと10位のブラックエンペラーも出走へ。
11位のスピードオブライトと12位のセラは回避の予定だ。
13位クラウディハートは香港マイルへ
その他、海外より今年のオークス馬ハマーンカーン(ドバイ)も参戦予定。
今年の有馬記念は見逃せない!
2
関西国際空港に降り立った浦河美幸と山形茜。
オメガフライトで香港カップを勝った美幸と、香港マイルをクラウディハートで勝った茜。
揃って国際GI凱旋帰国である。
2人を大勢の記者が取り囲む。
だがその中心は山形茜だった。
ここに集まった記者たちは香港での活躍をインタビューしにきたわけではないのだ。
茜がジャパンカップをデビルマンで勝たなければ脱ぐとの公約を掲げて、結果は見事に敗戦。
香港でのレースの日に、[薔薇の鞭]とタイトルされたヘアヌード写真集が発売されたのだ。
現役女性アスリートの過激なショットの数々に、全国の書店から一斉に写真集が消えるという怪現象がおこり、出版社とは初版限定で増版なしとの契約から、すでにプレミアが付き、発売日数日後にしてネット上でオークションに出され高値で取引が行われている。
美幸はひとつため息を漏らした。それは決してこの騒動に対してではない。
茜からもらった写真集の内容を思い出したからだ。
SMをテーマにした過激なポーズに、黒いロングヘアーを振り乱しながら見るものを挑発する瞳。
ロリータな顔立ちに不釣り合いな引き締まった裸体に、バラの茎を巻き付け自慰をするショットもある。
(はぁ…。なんでこの子はこうなの…。)
まるで妹を心配するような姉の心境だ。
しかし、インタビューを受ける茜の顔は満面のロリータフェイスであった。
3
12月三週。
朝日杯フューチャリティステークス。
2歳チャンプを決めるレース。
勝利馬主の表彰台には田辺真の姿があった。
勝ったのはドリームショット。
2年前、セレクトセールで宝田誠から薦められてセリ落とした馬だ。
田辺真にとって馬主になって3年、様々な感動を味わった。
それは決して会社経営者としてだけでは学べないことだらけであった。
馬から人生を学んだのだ。
初の持ち馬であったストライクドリームはいきなりダービーを勝ち、ドリームベッセルは重賞5走連続2着と珍記録を出し、いろいろな意味で順風満帆の馬主生活を送っている。
若き経済界のリーダーは、父の背中を追いながらいつか夢を掴むであろう。
4
有馬記念1週前。
原厩舎に訪れた的矢。
原と武田を目の前に大きな決断を口にした。
「申し訳ないのだが・・・ドリームメーカーにはもう乗れない。
本当に申し訳ない。」
的矢の言葉に原が声を荒げる。
「なんでスか!?」
無言の的矢。
しかしすべてを悟ったように武田が静かに口を開いた。
「やはりお前さんも気づいてしまったか。」
武田の言葉に戸惑いの表情を見せる原。
少しの沈黙の後、的矢が本意を語りだした。
「ジャパンカップで気づいてしまったのだよ。
あいつを・・・ドリームメーカーを私では勝たせることができないことが。
これからもドリームメーカーを乗りこなすことは出来るだろう。
これまでの3戦は出来る限りの最高の騎乗をしたつもりだ。
だが、あいつの強さは決して競走能力だけではない。
あいつの限界の向こう側にある『核』を掴むことが私にはできなかった。
その『核』を爆発させることができなければ戦うことはできても、勝つ事はできないだろう。
残念ながら私ではその起爆はできそうにない。
いい馬だよ、ドリームメーカーは。
しかし馬齢には勝てない。今、あいつに必要なのは『核』を起爆させることのできる騎手だ。それは・・・私ではない。」
的矢の言葉に原はまだ納得がいかない。
「的矢さん!今更乗れないはないっスよ!ドリームメーカーには的矢さんが必要でス!次の有馬だけでも・・・お願いしまスよ!」
必死に懇願する原を静かに制した武田が少し笑みを浮かべて2人に語りだした。
「原よ、あきらめよう。的矢の言っとることは正しい。
さすが一流の騎手じゃ、ドリームメーカーの本質を見抜きよった。
原もわかっとるだろう。
ドリームメーカーが本来、GIなんぞ勝てる馬ではなかったって。
ヤツは・・・ドリームメーカーは競走能力ではなく潜在能力で戦ってきたんじゃ。
だが的矢よ。お前さんが乗ってくれた3戦は無駄ではなかった。
あいつに勝つ術を叩き込んでくれた。若い馬にも引けをとらん走りを教えてくれた。ありがとう、的矢。お前さんはブラックエンペラーに戻るんじゃろ?
有馬でまた会おう。」
武田は言い終わると席を立ち的矢に軽く頭を下げその場を去った。
「原さん、本当にすまない。
有馬は村木にたのんでくれ。あいつならドリームメーカーの潜在能力を引き出せる。」
的矢も席を立ち原にもう一度詫びて厩舎を後にした。
残された原は、村木の元へ向かった。