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【10万PV!!】 競馬小説ドリームメーカー  作者: 泉水遊馬
シーズン6 chapter8
357/364

DRAGON QUEST-3

『さぁー!第4コーナーを周って直線に向いた!

先頭はフュージョン!早いペースでレースを引っ張ってきた!まだ3馬身を保っている!

しかし最強の2頭が並んで一気に差を詰めてきたぞ!

後方エアマスターはまだ馬群の中!

外からドラゴンアマゾンがすごい脚で4番手まで上がってきたぞ!』


ケント・テサーモとキャスパル・ダイクははじめから展開など考えていなかった。

16頭の出走でありながら2頭のマッチレースを演じてきたのである。

直線入り口で一気にほぼ同時にスパートをかけた2頭。

ここから壮絶な叩き合いがはじまった。


浦河美幸は必死にムチを振るいフュージョンにゲキを入れる。

大逃げではなく引きつけながら早いペースを作ってきた。

美幸にはある思惑があった。日本の重いダートで日本馬が負けるわけにはいかない。

スピード勝負ではなく、パワーで最強の2頭を打ち負かすのだ。


それがたとえ自分の馬ではなくても。


美幸は横をかわしていくアルカポネとジオングの姿を確認した瞬間、ムチをフュージョンの顔の前でビュンと振った。

この位置で見せムチなど意味はない。フュージョンはすでに口を割っている。


(新ちゃん・・・あとは任せたわよ!)


公正な競馬ではあってはならない『合図』が美幸から野田新之助に送られた。

レース前から打ち合わせた二人の作戦。

悟られないように演じなければならない。


キャスパルが叫ぶ。

「ミユキ!ドラゴンのペースメーカーだったのかぁ!」


ケントも美幸の奇妙な騎乗に疑問を持っていた。

ドリームメーカーの弟であるフュージョンは気性が荒い。

行きたがるフュージョンを抑えてペースを作る大胆な騎乗はケントの知る美幸ではなかった。


直線の短い阪神ダートコースだからこそ成しえた作戦。

前が残りやすいこのコースで必ず2頭はハイペースでもついてくる。

根拠は、

「キャスパル!ケント!日本馬をナメるんじゃないわよ!」

美幸の叫びがこの理由だ。

残り200を切って美幸はレースを降りた。しかしそれは勝利へのバトンをつないだ最高の騎乗であった。


『残り200の標識を通過!

先頭は最強の2頭にかわった!

フュージョンは後退!

しかし外からすごい脚でドラゴンアマゾンが迫ってくるぞ!』


美幸のサインを確認した野田新之助は込み上げる感情を殺し、ドラゴンアマゾンへとラストスパートを促した。

レース前、美幸から「私が2頭を潰すから必ず勝って」と言われ、第三コーナーから捲り、直線入り口で最強の2頭を捕らえられる4番手の位置に上げてきた。すべて美幸の指示通りである。

そして「私がサインを送るまで最期のギアは我慢して!」と。


今、美幸からそのサインが送られた。それは残り200を切った位置、最強の2頭とは2馬身差。


野田新之助は高らかにムチを振り上げた。

狙いを定め、獲物へ引き金を弾くように。


「いっけぇ~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!!」


ドラゴンアマゾンに打ち付けられたムチは一気に爆発し、激しい勢いで獲物へと撃ちこまれた。


「チィィーーーー!振り払ってくれる!」

キャスパルが叫びムチが飛ぶ中、隣で併せるケントも焦りを見せていた。

しかしそれはジオングではなくドラゴンアマゾンに対してだ。

今この競り合いの状況で、粘り強さが武器のアルカポネであればジオングには勝てる。

しかしハイペースで迎えた終盤、後ろから迫られるこの現状は非常に辛い戦況であった。

マッチレースと高をくくった自分とキャスパルへの代償であるように感じていた。

いや、どんな猛者でも最強の馬に乗れば慢心となり、それは武器にもなれば少しの綻びを生むこともある。

日本の天才ジョッキーとて当時の最強馬に乗った有馬記念で慢心による敗北を喫して『漬物石』と揶揄された。


キャスパルよりいち早く現状を把握したケントは、懇親の力を込めて手綱をしごいた。

『アルカポネとジオングの叩き合い!

BCクラシックの再現か!?

2頭とも譲らない!

一進一退の攻防で残り100を切った!


だが外から1頭きている!

ドラゴンアマゾンだ!

ドラゴンアマゾンが2頭に並びかける!

凄い脚だ!

凄い脚だ!

アルカポネとジオング、ドラゴンアマゾン3頭並んだ!

3頭並んでゴール!

これはわからない!

どの馬が勝ったかまったくわからない!』


龍田仁は虚空を見ていた。

馬主席の中央を陣取り、レースを見ていた龍田は最後の直線で見せた愛馬の末脚に我を失い、叫び怒号をあげゴールを迎えた。

抜け殻のような脱力感。

駆け寄る飛田雅樹の声すら聞こえない。


彼が見る虚空の中にこれまで自分が生産してきたサラブレッドたちが龍田を見ていた。

中には【処分】された名も忘れた馬もいた。


龍田はポロリと一言その馬たちに声をかけた。


「おまえたちが今日の礎を築いてくれたのだ・・・ありがとう。」


馬たちは1頭、また1頭と消えていった。


「おい龍田!なに泣いてんだ!?

まだ結果でてないだろ!」

突然、飛田の顔が視界に飛び込む。


時間にして3秒。龍田は虚空から帰ってきた。


たしかに龍田の目に光るものがあった。

「泣いている?そんなバカな!?

目にゴミが入っただけだ!

それに・・・結果はもうわかっている・・・。」


静かに龍田が告げた後、阪神競馬場は大観衆の怒号と歓喜に揺れた。


『1着はドラゴンアマゾン!!

2着アルカポネ!

3着ジオング!

ドラゴンアマゾンが最強の2頭に勝った!


ドラゴンアマゾンが日本馬の意地を見せました!』

10

「美幸ちゃん!やったぞ!」

野田新之助が美幸に駆け寄る。

「うん!やったね!うまくいったわ!」

少し小声で美幸が答えた。


日本競馬の威信を保つために連携された2人。世界のダートを牛耳る2頭を打ち負かした。


「でも新ちゃん。まだもうひとつあるわよ。

有馬記念で新ちゃんはシューティングレイでまた最強の2頭と戦わないと。

私は乗る馬がないから助けられないわ。

三田くんのアルバトロスと一緒に、必ず日本に勝利を・・・お願いね!!」


「わかったぞ!まかしておけ美幸ちゃん!」

野田の力強い返事に、少し美幸は寂しさを感じた。


有馬記念に乗る馬がいない。

いや、有力な乗鞍がないというのが正確だろう。


そして、有馬記念にあの2頭が出走表明を出した。

国際レースとなった有馬記念には6頭まで外国馬の出走枠がある。

いまや日本競馬は世界から注目される舞台となっているのだ。

それはレースだけでなくマーケットという意味でも。

これは、過去の様々なサラブレッドたちの命をかけた走りが作った礎である。


それは名馬と呼ばれたスターたちだけではなく、過去に埋もれたサラブレッドすべての血に感謝せねばならない。


そして未来へまたサラブレッドは走り出すのだ。


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