DRAGON QUEST-1
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ジャパンカップ翌週。
ジャパンカップ・ダート(GⅠ 阪神競馬場 ダート1800m)
出走馬
海外招待馬
エアマスター(牡3 USA)
アルカポネ(牡4 USA)
ジオング(牡3 UAE)
国内出走馬
ドラゴンアマゾン(牡5 JAPAN)
フュージョン(牡4 JAPAN)
ブルーインパルス(牡5 JAPAN)
他9頭
「ふふふふ・・・
我が華麗なる一族がとうとう世界一になる日がやってきたか・・・
今日のこのレースが終わった後には、世界中のホースマンが私の前にひれ伏すだろう・・・
ふわっははははははーーーーー!!!!!!!」
龍田仁のつぶやきが馬主席に響き渡り、ジャパンカップ・ダートの本馬場入場が始まった。
この日の1番人気はジオング。鞍上キャスパル・ダイク。
前走BCクラシック覇者。
2番人気にアルカポネ。鞍上ケント・テサーモ。
アメリカ・ダートNo1がわざわざ日本まで前走のリベンジにやってきた。
3番人気エアマスター。鞍上キャサリン・エバンス。
ケンタッキー・ダービー馬が風の一族の名にかけて2頭を追いかけてきた。
4番人気ドラゴンアマゾン。鞍上野田新之助。
日本の大将格として世界のトップを狙う。
5番人気ブルーインパルス。鞍上三浦大成。
フェブラリーステークス制覇後、地方GⅠを連覇して臨んできた。
6番人気フュージョン。鞍上浦河美幸。
昨年の覇者。今年に入って不本意な成績だが、ハマれば怖い一頭。
以上の有力馬がこのステージに上がった戦士たちだ。
しかし上位2頭が飛びぬけた存在であることに変わりはなかった。
3番人気エアマスターはケンタッキー・ダービー後、プリークネスステークス4着、ベルモントステークス6着とクラシックは篩わず、芝路線転向で才能を開花させた。しかしゾディアックにBCターフで負け、ダートのアルカポネに挑まざるを得ない状況が生まれた。2つの路線が活気あるアメリカで1番になるためには、戦いの環境を選んではいられない。エアマスターもダービー馬として、この選択を迫られたのである。
『さぁ!ジャパンカップ・ダート、枠入り順調!
各馬ゲートに入り・・・
スタートしました!!』
勢いよく飛び出した各馬、真っ先にハナを切ったのはフュージョン。
浦河美幸の激しい追いで逃げのポジションについた。
3馬身ほど離された位置にジオングとアルカポネが並走して集団を引っ張る展開。
その直後にブルーインパルス。
集団の最後方エアマスター。
1馬身離れたシンガリにドラゴンアマゾンが不気味に待機していた。
2
ハナを切ったフュージョン鞍上の美幸は後方の警戒に集中せざるを得なかった。
ジオングとアルカポネという世界のダート界の頂に君臨する2頭。
しかし日本のダートで好きにさせるわけにはいかない。
日本のダート馬場はアメリカやドバイの質とはまったく違うのだ。
アメリカのダートコースは土を使っており、路盤は煉瓦を砕いた赤土のような路盤となっており、ダートレースは日本の芝レース並みの走破タイムが出る。小回りで平坦な直線の短い競馬場の形態とこの路面の特徴から、アメリカダートコースにおけるレースの特徴はハイペースで先行し、決勝線までそのスピードを維持した馬に有利となるものである。
一方ドバイではAWが主流となり、芝と同様にスピードが求められる。
だが日本の砂主体のダートコースは、アメリカのダートと比べてスピードよりもパワーが求められるという特徴がある。
美幸は、この異なる特性を乗り分けることによって世界の一線級と渡り歩く術を得たのである。
日本のダートGI馬がアメリカよりも遥かに『重い馬場』で、海外遠征馬に負けてはならない。
強い意志が込められた美幸の手綱はフュージョンを前へ前へと押していた。
3
その6馬身後方で並走する2頭。
ジオングとアルカポネ。
前走、BCクラシックではジオングが鮮やかに勝利している。
世界の頂点を極めたジオングが、急遽参戦を表明したジャパンカップ・ダート。
このままでは終われないアルカポネが追うように日本へとやってきた。
アメリカ・ダート界の頂点に君臨するアルカポネにとって、ドバイの馬にその座を渡したままシーズンを終える事などできない。
そのステージがこの日本のダート王決定戦となったのである。
アルカポネ鞍上ケント・テサーモ。
年間589勝は世界記録。そしてケンタッキー・ダービー3勝という輝かしいキャリアをもつ世界屈指のスーパージョッキーである。
彼も日本競馬に精通しているトップジョッキーの一人といえよう。
日本での騎乗も多く、芝ではオークス、ダートでは帝王賞などのGIを制している。
特筆すべきは地方競馬、南関東地区の船橋競馬場で短期免許を取得し、連日活躍したことであろう。
アメリカのみならず日本のダートの特性も熟知している点が、隣で並走するジオング鞍上キャスパル・ダイクに優っている強みを持っている。
そのキャスパル・ダイクは予想外の展開に困惑していた。
それはレースの展開ではない。まさかアルカポネが日本のダートGIに参戦してくることになろうとは思ってもいなかったのだ。
アメリカ競馬は、ブリーダーズ・カップで一年のシーズンを終える。
だからアルカポネとは、来年のドバイ・ミーティングでの再戦になるであろうと強く確信していた。
このアジア地区で、年末大きなダート国際レースであるジャパンカップ・ダートでジオングの今シーズンを締めくくることは当初から決まっており、予定通りの参戦表明の直後にアルカポネが出走を決めたのである。
これはジオング陣営にとって大きな誤算であった。
ダートの質がアメリカと日本ではまったく違うことは承知の上。しかし地力の違いで日本の重いダートでも完全なる勝利を疑わずにたてたローテーションであった。ジオングが日本の馬に負けることなど有り得ないからだ。
だがアルカポネの参戦で、その事情は変わってしまった。
むしろこの重い日本のダートではアルカポネの方が向いている。
しかし負けるわけにもいかないプレッシャーの中で、キャスパルの手綱は勝利へのプロセスを模索していた。
4
レースが1000mを切った時点で後方3番手で待機するエアマスター鞍上キャサリン・エバンスは違和感の中にいた。
そもそもこのジャパンカップ・ダート参戦に最後まで反対していたキャサリンは、案の定この重い馬場にエアマスターが苦戦していることを感じ取っていた。
本来ならばこの一週間後の香港カップに登録していたエアマスターを、あえて日本のダート戦に出走させる意味がキャサリンには理解できなかったのである。
ケンタッキー・ダービーで見事に勝利したエアマスターだったが、続くクラシック第二弾プリークネスS、第三弾ベルモントSを惨敗。
休養をはさみ芝の3歳GIセクレタリアト・ステークスに勝って芝路線で新たな才能を開花させた。そして『風の一族』の新旗手は、BCターフに挑んだ。
しかしこのレースはゾディアックVSプロミネンスという芝路線世界一決定戦というビッグネームのみが注目されていた。
だがプロミネンスが急遽回避というアクシデントもあり、エアマスターは堂々の2番人気の評価でゲートにおさまった。
結果、ゾディアックから離されること9馬身。屈辱の2着でゴール板を通過。
逆にこの敗戦が、オーナーであるベル・メッツの闘争心に火をつけた。
「ゾディアックがダメなら、アルカポネだ」
現在アメリカを代表する2頭。
世界の芝路線で絶大なパフォーマンスを見せるゾディアック。
ドバイワールドカップをはじめ、国内のダート主流GIを勝ち続けていたアルカポネ。
競馬大国アメリカで頂点に立つには、このいずれかの馬に勝たなければならない。