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【10万PV!!】 競馬小説ドリームメーカー  作者: 泉水遊馬
シーズン6 chapter6
350/364

名牝の条件-4

5

大阪杯を勝って勢いづいたユリノファンタジーは、次走にヴィクトリアマイルを選んだ。

断トツの一番人気となったが伏兵馬のライネメリッサ(6番人気)に逃げ切られて2着と敗れた。

距離的にマイルは厳しいと陣営は判断し、これ以降は中距離からクラシック・ディスタンスを中心に使われる事になる。


そして春のグランプリ宝塚記念。


1番人気は天皇賞(春)を勝ったブラックハート。

2番人気にダイワエスケープ。

3番人気に金鯱賞を制したフェルナンデス。

ユリノファンタジーは4番人気になっていた。


このレースのユリノファンタジーの鞍上は藤島伸一ではなく、大ベテラン安田富一の姿があった。


藤島には珍しく、反則により前週から騎乗停止の処分を受けていたからである。


急遽の乗り替わりに安田が指名されたのだが、ベテランらしく追い切りでユリノファンタジーの個性を見出だしていた。


結果的にこのコンビが、偶然ではなく必然を生む起爆となったのだ。


断然たる人気を背負ってブラックハートが後方でレースを進める中、ユリノファンタジーはいつもより前目の中団で落ち着いていた。

逃げるダイワエスケープは前年の有馬で見せた引き付ける逃げで一定の距離を保ちつつスローペースを作りあげている。


最終コーナーを回った時に、ブラックハートより前の位置で先頭に取り付いたユリノファンタジーは早目のスパートを仕掛けていた。


今までの追い込み策から一変して、オーソドックスな先行差し競馬で進めてきたユリノファンタジーは、ダイワエスケープと並んで直線を迎えた。


後方から鋭い末脚で追い込みをかけるブラックハートだが、前で粘りを見せるユリノファンタジーとの差を詰め切れず、残り100でダイワエスケープをかわして2番手に上がった時には、ユリノファンタジーにまだ1馬身の差が残っていた。

懸命にムチを打たれて追い上げるブラックハートだが、ユリノファンタジーの粘りに半馬身までが限界、見事に牝馬にしてユリノファンタジーが宝塚記念を制したのである。


安田富一のキャリアが、ユリノファンタジーの自在性を見抜いた好騎乗であった。


夏の休養を挟んで、秋は引き続き安田富一を背に京都大賞典から始動。


ここでは宝塚記念で先着したブラックハートに2馬身つけられて完敗。

続くエリザベス女王杯は連覇が期待されたが4着と奮わず、暮れの有馬記念は着外に沈んだ。


翌年は初戦を大阪杯に選んだが、着外でのゴール後に屈腱炎が確認され、長期の休養が余儀なくされた。


1年半の休養後に、6歳となったユリノファンタジーの復活レースとなったのが3度目のエリザベス女王杯である。


【すでにピークは過ぎている】


周囲の評価に反発するように、過去最高の出来と陣営を唸らせる追い切りを見せたユリノファンタジーは、久しぶりのレースにも関わらず、ベテランらしく悠々とパドックを周回していた。

6

世代を超えた牝馬最強決定戦エリザベス女王杯は、今年外国馬としてオークスを制し、世界的活躍を見せたドバイのハマーンカーンに人気が集まる中、日本勢は3歳馬を中心に追撃の期を狙っていた。

しかし、ゲートが開いてすぐに先頭にたったハマーンカーンの大逃げに、好位先行で勝ちパターンを演出してきた桜花賞馬セラもついて行くことができずにペースを落とした。

キャスパル・ダイクに操られ、後続をグングン引き離すハマーンカーンの遥か10馬身後方で、6歳熟女馬ユリノファンタジーが追い込みの位置で追走をしていた。

まるで自分のクラシックシーズンの時、ライバルであったエイシンアルファを追っていたあの時のように。

レースは残り1000の標識を通過した。


ハマーンカーンが後続を8馬身離して残り800を通過。

ほぼ団子状態の集団の中団にユリノファンタジーはいた。

一気にペースが速くなる馬群から大外に位置を変え、安田富一は追い出しを開始した。

集団を引っ張るセラに並びかけた秋華賞馬フライングスカイ。

3歳牝馬の筆頭2頭が先頭のハマーンカーンを追撃に入る。

その外には1馬身差で4歳馬ラヴァーズアゲインも三田崇に導かれ2頭に取り付いた。

淀(京都競馬場)の2200m、直線は403.7m。

4馬身のリードでこの直線に入ったハマーンカーン鞍上キャスパル・ダイクはセーフティーリードを確信していた。

追撃する3頭は必死にムチを奮い追っているが差はなかなか縮まらない。


一気にボルテージが上がる大観衆の声援、怒号がさらに高まったのは次の瞬間だった。

後方から凄い脚で追い込む1頭が、2番手争いをする3頭を残り300m辺りで一気に交わして2番手に躍り出たのだ。

ユリノファンタジーが安田富一の渾身のムチを受け、怒涛の脚を炸裂させていた。

ハマーンカーンは3馬身のリードで残り200を独走していた。

キャスパル・ダイクが後続の異変に気付いたのは観客のテンションが更に上がった瞬間であった。

頭脳より本能が先に動き出す。

ムチを振り上げハマーンカーンに激を入れる。


脚は止まっていない、勢いもある。


だが一瞬ハマーンカーンの気配が変わった。


警戒。


キャスパルはハマーンカーンの出すサインを理解した。


(桜花賞馬か?

秋華賞馬か?

ヴィクトリアマイル馬か?)


キャスバルの想定内にはこの3頭しかいなかった。

3頭とも前目でレースをこなすタイプ。

直線でこれだけリードがあれば残せる自信があった。


だが徐々に近づいてくる脚音は【末脚】のリズム。

残り100で横に並び視界に入った馬は、そのどれでもない6歳馬であった。

この状況に1番驚いていたのはユリノファンタジー鞍上の安田富一だったかもしれない。

追い切りの状態から日本馬には勝てる可能性を感じていた。

しかしハマーンカーンの桁違いの強さには太刀打ちできないことは明らかだった。


だが残り400からの加速力は凄まじいものがあった。


グングン近づいてくるハマーンカーンを必死に追いながら安田富一は、身体の奮えを感じていた。


7

安田富一のビッグタイトル獲得は常に差し追い込みから生まれている。

初めてクラシックを獲ったブルーグラスでの菊花賞、引退を撤回してまで挑んだ日本ダービーではストライクドリームの雷脚でダービージョッキーの仲間入りを果たした。

安田自身、決して末脚勝負が得意と言うわけではない。


馬の特性に合わせた騎乗が結果的にこうなっただけなのだが、これは安田にとって大きなスキルであることを物語っている。


安田の代名詞となっているローカルリーディング。

秋のシーズンに名乗りを上げるために、真夏の日差しの中、灼熱のレースを条件馬たちがローカル開催で繰り広げる。

そこでの騎乗成績がずば抜けているのだ。


これは安田のスキルの高さが出した結果である。


乗り替りの激しいローカル開催で、即座に馬の特性を見抜き適切なレース展開を選択する。

これが騎手として夏のローカル開催を勝ち抜く条件でもある。


この能力が安田の最大の武器なのである。


決して派手な勝ち方をするわけでもなく、ましてや華やかな個性の騎手でもない安田が今もなお騎乗依頼が絶えないのはここに理由があるのだ。


ハマーンカーンに並んだ瞬間、安田の身体はブルッと震えた。


(必ず馬は応えてくれる・・・!)


次の瞬間、安田はニヤリと笑い右手を高らかに上げた。

怒涛の末脚をみせたユリノファンタジーはハマーンカーンをかわし、1着でゴール。

長期休み明け6歳での快挙となった。また倒した相手が海外GI馬と言うのもこれに花を添える結果となった。


この勝利はフロックに見られるかもしれない。

しかしユリノファンタジーのこれまでの戦跡を見れば決して不思議ではない。


そして最大の勝因は、血脈にあると確信せざるをえない。


スターロッチの血の魅力は、早い時期から活躍し、ピークの持続力があるということである。


長期休養明けの6歳のこの時期でも、ピークを維持したまま迎えてこられる事が名血のなせる業であろう。


名牝の条件、それはいつの時代も変わらない【血の威力】を伝え続ける力なのである。


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