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【10万PV!!】 競馬小説ドリームメーカー  作者: 泉水遊馬
シーズン6 chapter6
349/364

名牝の条件-3

ユリノシーザーが最後の種付けシーズンを迎えた時、種付け料は無料であった。

最低限血を残すと言うギリギリの所で踏ん張っていたが、やはり活躍馬を出せずに種牡馬引退の決断が下された。


最後の種付け頭数は6頭。

それは実績の無き繁殖牝馬ばかりであった。


その中の一頭に、地方金沢で走って繁殖に上がったピアチェーレがいた。

ピアチェーレ自身も大した競走成績を上げる事はできなかったが、父がマーベラスサンデーといったサンデーサイレンス系であり、血統的な実績背景は整ってはいた。


しかしすでにターフに送り込んだ3世代の産駒に地方ですら活躍馬を出せずに、無料種牡馬へと身を捧げる結果となった。


翌年生まれたピアチェーレの仔は、まったく目立つような事はない、おとなしい牝馬であった。

セレクトセールでセリ落とした相羽ゆりは、愛馬であったユリノシーザーのラストクロップである事が第一の購入理由であり、馬への期待はそれほどなかったかもしれない。

それが入厩の近づく2歳夏になると、育成牧場で評判になるほどの雄大な馬体を見せ始めた。


このユリノファンタジーを預かる調教師の藤川は、限りない可能性を秘めたこの馬に、大きな期待を持ちはじめていた。



しかし同世代の中でもずば抜けた調教時計を刻んでいたユリノファンタジーだが、暮れのデビュー戦では3番人気の5着と奮わず、年明け早々の3歳未勝利でなんとか勝ち上がった。

鞍上の藤島伸一との試行錯誤の末、後方待機の策がうまくハマった結果であった。

藤川は、勝負のレースや、期待の馬には藤島伸一を使う傾向が強く、絶大な信頼を寄せていた。


ユリノファンタジーと藤島伸一のコンビこそが、藤川の期待の大きさを物語っていた。


藤島伸一を背にユリノファンタジーは、クイーンカップで初重賞を制して、続くチューリップ賞で2着と一気に桜花賞への切符を手に入れた。


上位4番人気で出走した桜花賞は、1番人気の2歳女王エイシンアルファに遅れる事5馬身の3着と敗れてしまった。


父であるダービー馬エイシンフラッシュに初めてクラシックの栄冠を与えたエイシンアルファは、その年の最有力として挙げられており、父の実績もあってオークス制覇確実と見られていた。

粘り強い先行力を武器に、前の位置での自在性を生かした三田崇の騎乗が抜群の相性を生んでいた。


敗れたユリノファンタジーも決して悪いレースではなかった。

全頭中、一番の上がりタイムでの三着。

内容はベストの結果であった。


リベンジに燃える陣営は、万全なる仕上げでオークスのステージに向かった。

オークスは前走の着順通り三番人気に推されていた。

しかし、本命のエイシンアルファと『それ以外』といった評価に留まっていた。


エイシンアルファが強くて、切れる脚はあっても届かない』


決してユリノファンタジーの評価が低い訳ではない。桜花賞のレースぶりが、エイシンアルファの地位を不動にしていたのである。


だが競馬に絶対はない。絶対の本命馬にこそ波乱が起こりうるスポーツである。


ゲートが開き、先行三番手で好位を進むエイシンアルファは最終コーナー入口で早くも先頭に躍り出た。


方やユリノファンタジーは、エイシンアルファを見ながら、五番手で最終コーナーに入り早めの仕掛けで捲りに入っていた。追撃体勢に入ったユリノファンタジーは残り200Mでエイシンアルファに並びかけた。


しかしここからの強さがエイシンアルファの持ち味であり、激しい叩き合いの中でも、頭ひとつのリードを保ちながら残り100を切った。


だがエイシンアルファの完全なる勝ちパターンのこの場面で、ユリノファンタジーは新たな覚醒を見せた。

藤島の最後の一叩きで見事にエイシンアルファをかわし、ハナ差前に出てゴール板を駆け抜けた。


まったくもって期待されていなかった低評価の牝馬がクラシックの大一番であるオークスを制したのである。


オークスを制したユリノファンタジーだが、まだ世代の代表格はエイシンアルファと見られていた。

それは現実にも、秋の直接対決となったローズステークス、GI秋華賞もエイシンアルファの見事な勝利にともに二着と敗れている。


そして古馬混合戦エリザベス女王杯。

1番人気はエイシンアルファ。

2番人気に4歳で前年のオークス馬ミリオンダラー。

ユリノファンタジーは3番人気となっていた。


レースがスタートして、ハナを切った8番人気のボナセーラが15馬身の大逃げで詰め掛けた大観衆を湧かし、後続を引っ張る位置にエイシンアルファはいた。

さらに後方、馬群の中にユリノファンタジーは内に閉じ込められるような展開を進めて残り1000の標識を迎えた。


先に動いたのは中団の外を回っていたミリオンダラー。

動いたと言うよりややスローなペースに馬が我慢できなくなったと言う方が的確だろう。


このスローペースを作っていたのは遥か前方を行くボナセーラではもちろんなく、馬群で先頭に立つエイシンアルファと三田崇である。


すでにエイシンアルファに並びかける勢いのミリオンダラー。

三田崇はそれを待っていたように少しずつペースを上げた。

この先行の位置での天才的騎乗こそが三田崇を一気に日本屈指のトップジョッキーへと登り詰めさせた理由であり、これはロンバルディアにより導かれた才能の開花だと本人も認めている。

だが三田崇もひとつの疑念を持ちつつレースを進めていた。

大逃げを打ったボナセーラの鞍上が野田新之助である事である。

逃げや追込みなどの極端な脚質の馬こそ野田新之助の真骨頂であり、この大一番での大逃げは野田のキャリアから見ると勝負に出た証拠である。現に近年の高配当のほとんどが野田新之助による低人気馬の連対絡みである。もうひとつ言えばボナセーラは逃げ馬ではない。

エイシンアルファ同様、好位でレースを進めるタイプの馬である。


野田に対する疑念を抱きながら、三田崇は京都の下り坂から追い出しを始めた。

残り800を切ってようやく外に持ち出したユリノファンタジーは一気に捲りを開始。

まだ先頭のボナセーラまで15馬身あった。

最終コーナーを出て直線に入った時、先頭のボナセーラは2番手のエイシンアルファに8馬身のリードを保っていた。


徐々に差を縮めるエイシンアルファ。

それにしっかりついてくるミリオンダラー。

残り400でその差は4馬身となっていた。

しかしこの時、前3頭の戦いとは別の馬を観衆は見ていた。


後方大外から凄まじい脚で、一気に追い込んでくるユリノファンタジーである。


残り200で先頭はボナセーラ。

しかしエイシンアルファは1馬身まで詰め寄る。

ミリオンダラーをかわして3番手に上がったユリノファンタジーはその2馬身差。

残り100を切った時ユリノファンタジーは藤島伸一のムチが飛んだ時、オークスで見せたもうひとつのギアを発動させた。


一気に前2頭をかわし先頭でゴール板を通過した。

2着にはボナセーラが残り、エイシンアルファは悔しい3着という結果に終わった。


ユリノファンタジーとエイシンアルファという世代のライバルはGIを分け合う形でグランプリで決着をつけるはずであったが、エイシンアルファはレース終了後に故障を発症。

結論から言えば復帰することなく翌年の春に登録を抹消し繁殖に上がった。


ユリノファンタジーは有馬記念を7着と奮わなかったが、翌年の始動となった大阪杯では見事に牡馬を相手に勝利した。

この年の注目馬はユリノファンタジーと同世代で前年のダービー馬ブラックハート、同じく昨年、菊花賞と有馬記念を制したダイワエスケープ。


この3頭が、この時代の名勝負を作る事になる。


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