名牝の条件-2
スターロッチ。
競走馬時代に1960年の優駿牝馬 (オークス)、有馬記念に優勝。繁殖牝馬となって以降はその子孫に数々の活躍馬を輩出し、戦後の名牝の1頭に数えられる。
自身の子には飛び抜けた実績を挙げる馬は出なかったが、孫以降に次々と活躍馬が現れ、その血統は近年に無い繁栄を見せ、名を更に高めた。主な子孫には皐月賞優勝馬ハードバージ、天皇賞優勝馬サクラユタカオー、二冠馬サクラスターオー、日本ダービー優勝馬ウイニングチケットなど。その他にも数々の重賞優勝馬を輩出、その血統はクレイグダーロッチの牝系の中でも特に「スターロッチ系」として取り扱われる。
晩年には、幼くして母を失った玄孫サクラスターオーの乳母を務めた。同馬が競走馬としてデビューする2ヶ月前の1986年8月7日に老衰で死去。
その血統背景は素晴らしく、父系二代前に名馬ファラリス(Phalaris、1913年 ー 1931年)が名を連ねている。ファラリスの子孫にネアルコやネイティヴダンサーが出ており、現代サラブレッドの約8割がこの馬に辿り着くと言われ、主流父系の始祖となった。
母系三代前にはアメリカ競馬の歴史的競走馬マンノウォーがいる。
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名牝として時代を越えても人々の記憶に名を残す条件があるとするならば、おそらくこのスターロッチの生き様にキーワードがあるだろう。
サラブレッドには大きく二通りの使命がある。
ひとつは現役の競走馬として、もうひとつは自らの血を繁栄させる事。
この両方、もしくは後者だけでも絶大な成功があれば条件は充たされる。
さかのぼればオグリキャップとオグリローマンを生んだクインナルビー。
ビワハヤヒデとナリタブライアンの母パシフィカス。
ダンスパートナー、ダンスインザダーク、ダンスインザムードの母ダンシングキイ。
ダイワメジャーとダイワスカーレットの母スカーレットブーケ。
いずれも母となってから名を上げた名牝である。
血統の名称は【ノーザンダンサー系】や【サンデーサイレンス系】のように種牡馬の名がつき、流行の種牡馬なら年間に200頭以上の種付けを行い、毎年100頭を越える産駒がターフにデビューする。
しかし牝馬は当たり前だが毎年一頭しか仔を生めず、生涯10頭生めばいい方である。
産駒の絶対数が違う為、血統の系譜の名が牡、すなわち種牡馬となるわけだ。
しかし血統において、否、種付け配合において一番重要なのは牝系である事は馬産業の常識であり、牝馬の血統に合わせて種牡馬が選定されているのである。
より良血の牝馬から選ばれる事こそ、種牡馬の成功に繋がるのだ。
そんな中で、唯一と言っても過言ではない牝系の血統名称が存在する。
【スターロッチ系】
である。
先にも述べたように、直子にはなかなか活躍馬が出なかったが、牝系にスターロッチの血が入った子孫たちが大きな活躍を見せた。
その代表馬の一頭に天皇賞馬サクラユタカオーがいる。
中距離でその類い稀なるスピードを披露した快速馬だ。
そのサクラユタカオーの代表的な産駒に歴史的スプリンターとして名を残すサクラバクシンオーもおり、このスターロッチ系を継承し続けている。
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牝系に入って力を発揮するスターロッチの末裔にもう一頭の天皇賞馬がいる。
ユリノシーザー。
資産家である相羽ゆりの所有馬としてターフにデビューした。
5歳で大阪杯をレコード勝ちし、その年の天皇賞(秋)を見事制して相羽ゆりに初のGI勝利を与えた。
しかし外国産種牡馬の乱立や、自身の血統のパンチ力不足も相まって、次第に種付け頭数を減らしていった。
しかしスターロッチ系の本当の力は、まさに底力の強さにあった。
いつの時代も血を活性させる事のできる底力。
サクラユタカオーからサクラバクシンオーへと時代の象徴とも言うべき代表馬の血に流れるも一流。
時代に置き去りにされた血に流れるも一流なのだ。
そして成功を諦めかけられたユリノシーザーが、ラストクロップ世代で自身の最高傑作となる娘を世に送り出した。
ユリノファンタジーである。