Beat Emotion-2
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10月4週、東京競馬場
天皇賞(秋)
芝2000m GI
『さぁ!本馬場入場です!
人気順に紹介していきましょう!
1番人気はデビルマン!
昨年のグランプリホースは宝塚記念2着、毎日王冠1着と今年も安定した活躍!騎手はもちろん山形茜!
2番人気はスピードオブライト!今年は安田記念2着、札幌記念2着と惜敗が続いています!騎手はこのレースより野田新之助に替わっています!
3番人気エクスキューション!
天皇賞春、宝塚記念3着と勝ちきれないレースが続いている昨年の菊花賞馬!鞍上は三田崇!
4番人気にブラックエンペラー!昨年のダービー勝利以来、苦戦続きでしたが、前走オールカマーの勝利で復調の兆しが見えています!騎手は乗り替りで岩本康成!
5番人気はドリームメーカー!12歳馬とは思えない堂々とした馬体!
なんかタテガミが逆立ってますが…。
前走の京都大賞典では差のない2着!この馬は衰えを知りません!騎手は前走から引き続き的矢均!
6番人気はオメガフライト!
距離適正で菊花賞を回避して参戦してきた3歳馬!
騎手はもちろん浦河美幸です!
7番人気グングニル!
昨年のスプリント王が2000mに挑みます!鞍上は横山典夫!
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以上、16頭!』
レース5日前。
「やっぱりこっちを選んでくれたんでスね!武田先生も喜んでたっスよ!」
原が嬉しそうに言った。
「不思議な馬だよコイツは。
長年騎手をやっているがこんな馬は見たことない。
まあ、これからよろしく頼むよ。」
的矢がドリームメーカーの首筋を叩きながら答えた。
本来、的矢は古馬の王道路線ではブラックエンペラーに先約があった。
騎手とは信用が命の商売だ。
先約を断るということは、今後のビジネスに大きな影響を招くことになるかもしれない。
しかし、たとえ悪影響を招く結果となったとしても譲れない馬が目の前に現れてしまったのだ。
「こいつは12歳だけど、若い馬には負けない力をまだ持っていまスからね!」
原が自信の表情で言う。
「ベテラン同士、もう一花咲かせよう。
なっ、ドリームメーカー。」
的矢の眼は勝負師のそれに変わっていた。
「ただ・・ひとつ難題があるんスよ。」
原の突然の告白。
「なんだ!?難題って?」
驚いたように的矢が聞き返す。
「いやね・・・
次走の天皇賞で会っちゃうんスよ。」
「会うって誰に?」
「浦河騎手っス・・・。」
原はここまでの経緯を的矢に話した。
「なるほど。その話はチラッと聞いてるよ。
まあ、うまくやるさ。」
的矢は自信げに言った。
7
美幸はパドックで周回するオメガフライトの歩様をチェックしていた。
(うん、調子よさそう。よく仕上がっているわ。)
だが美幸の視界にチョクチョク入る真っ赤な巨漢馬。
(なによ・・落ち着いちゃって・・・!)
少しの嫉妬感は否めない美幸。
ドリームメーカーは、美幸の姿は確認しているが、特に取り乱すことなく周回を続けていた。
「よかった~落ち着いてまスねドリームメーカー。」
原が安堵の言葉を漏らした。
「バカ。そう見えるだけだ。
見てみろあいつの下腹。汗だくじゃないか。
緊張を無理して押し殺している証拠だ。インフェルノとの戦いの時もあんな症状を見せた。
もしかしたら浦河が自分に騎乗するかもと期待してるのかもしれん。
的矢が跨った時が要注意だな・・・。」
武田が緊張の絶頂のような表情で原に言った。
固唾を呑んで見守る二人。
『止ま~~れ~~~!』
騎乗の合図と共に、騎手たちがそれぞれ自分の騎乗馬に向かう。
もちろん浦河はオメガフライトの元へ。
的矢がドリームメーカーに跨った瞬間・・・
ビョン!!!
ドリームメーカーのタテガミがすべて真っ垂直に逆立った。
「ハハハ、なんだそのタテガミは。しかもそんなに血管を浮き立たせて。
よしよし、その怒りをレースにぶつけような。」
的矢が鞍上からドリームメーカーに声をかけた。
ドリームメーカーの目は、これ以上ないほど吊りあがっていた。
「なんかアイツかわいそうっスね・・・。せっかく落ち着いてる演技までしてたのに。」
「いや、あの怒りが最大の武器になる。」
武田の予測は、このあと現実の事になる。
8
『さぁ!GIのファンファーレが鳴り響く東京競馬場!
順調に枠入りしていきます!
いつものようにドリームメーカーがゲート前で立ち止まります。』
ギャーーーオスーーーー!
ドリームメーカーの雄叫びが響き渡ると、一気に観衆のボルテージは上がった。
まるで怒号のような大声援に包まれた正面スタンド。
このレースの1番人気デビルマンの圧倒的な支持率が、本格化ピークを物語る1.2倍を叩きだした。
地方の帝王は、昨年の有馬記念を制し、挑んだ春のドバイワールドカップで惨敗したが、帰国後の金鯱賞を勝利、宝塚記念でドラゴンアマゾンのハナ差の2着と実力をアピール。
秋の緒戦である前走の毎日王冠を圧勝して今日の本番に堂々の1番人気。
ドラゴンアマゾンと古馬2強を確立している。
鞍上の山形茜の気合い漲る眼差しは大きな決意を意味していた。
(好位で前を狙う!)
『さぁ!枠入り完了!
スタートしました!!』
『まず飛び出したのはブラックエンペラー!
2馬身開いてデビルマンが行きます!
さらに後方、スピードオブライトが馬群の中団!
その外にグングニル!
さらに後方オメガフライト!
馬群の最後尾にエクスキューション!
少し離れたシンガリにドリームメーカー!
このような体勢で向こう正面を進みます!』