Beat Emotion-1
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菊花賞(GI)
京都競馬場 芝3000m
クラシック3歳限定
『クラシック第3弾!
菊花賞がやってまいりました!
皐月賞はアルバトロス!
ダービーはストライクドリーム!
この菊花賞で世代最強馬が決まります!
本日1番人気はアルバトロス!
三田崇を背に2冠を狙います!
2番人気はシューティングレイ!皐月2着、ダービー3着!
もう負けられない有力馬!
鞍上は野田新之助!
3番人気はダービー馬ストライクドリーム!
安田富一は最後のクラシック!
ダービー馬の誇りにかけて!
いざ菊獲りへ!
4番人気クラウディハート!
NHKマイルカップの覇者!距離の延長は大丈夫か!山形茜も気合十分!
5番人気ストライカー!前走の神戸新聞杯を2着!ベテラン的矢均が手綱を握ります!
6番人気にドラゴンディール!中立英一は高らかに逃げ宣言!
7番人気はオーバードライブ!3歳ながら小倉記念を制した快速馬!遅れてきたイーグルショット産駒!鞍上は浦河美幸!
8番人気アドバイザアーロン!
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以上16頭!』
2
『スタートしました!
まずは・・・行った行ったアルバトロス!皐月賞馬一気にハナに立った!
しかしドラゴンディールが外から交わして先頭へ!
続いてストライカー!
5番手にアドバイザアーロン!
クラウディハートはその後ろ!
その外にオーバードライブ!
ダービー馬ストライクドリームは12番手あたりか!?
そしてシューティングレイは最後方!
このような体勢で1周目のスタンド前を通過します!』
『向こう正面に入り先頭はドラゴンディール!
その2馬身後ろにアルバトロス!
さらに5馬身ほど開いてストライカーが馬群を引っ張る!
その後方にアドバイザアーロン!
クラウディハートは少し折り合いを欠いているか!?
オーバードライブが不気味に中団を追走!
ストライクドリームは外目に持ち出し前を伺う!
シューティングレイは全く動かず最後方!
残り1000を切った!』
3
野田新之助はシンガリでシューティングレイを宥めていた。
いつもの位置。
岡恭一郎が見ていた光景を野田も今見ている。
ジリ脚でいつも後方まで下がってしまうシューティングレイ。
しかし強烈な追い込み捲りが武器のシューティングレイにはベストポジションでもある。
のこり800mの標識を確認した野田は、追い出しを指示した。
『さあ!残り800!
ここでレースが一気に早くなります!
アルバトロスがドラゴンディールに並びかけ・・・交わして先頭に踊り出た!
それにストライカーが2馬身まで迫る!
4番手にオーバードライブ!
ストライクドリームはまだ後方!
さあ来たぞシューティングレイ!大外を一気に捲って7番手に!
残り600を切った!』
三田崇は計算通りのレース運びを展開していた。
最適なペースで周回し、最終コーナーで勝負を賭ける。
先行で押し切る馬の必勝パターンを理想のままに成したのだ。
しかし会心の位置取りで先頭に踊り出たアルバトロスの背で、自信の表情で最終コーナーを周るもう一人の騎手に三田崇は気づかない。
浦河美幸。
ターフの女帝はオーバードライブを早めに追い出し3番手まで押し上げていた。
4
『アルバトロスが先頭で直線へ向いた!
2馬身のリード!このまま逃げ切れるか!
2番手にストライカー!
しかしオーバードライブがそれを交わして2番手に上がる!
4番手にシューティングレイ!
クラウディハートも遅れて5番手に!
ストライクドリームは馬群でもがいている!
先頭はアルバトロス!
オーバードライブが一気に並んで残り400!
2頭並んで一歩も譲らず叩き合いだ!
それにシューティングレイが2馬身まで迫ってきた!
これは3頭の争い!
アルバトロスに三田のムチが入る!
オーバードライブも浦河のムチが飛ぶ!
シューティングレイが凄い脚でそれに加わったぞ!
3頭並んだ!
3頭並んだ!
200を切ったぞ!』
虎視眈々と前を狙っていたオーバードライブ。
イーグルショット産駒によく見られる自在性と融通性を強く持ったオーバードライブは、3月の遅いデビューから一気にオープンまで勝ち上がり、古馬相手に小倉記念を勝利。
トライアルを発熱で回避しての菊花賞出走となった。
父イーグルショット同様に比較的長い距離を得意とし、父の父スペシャルウィークの強烈な差脚も受け継いでいる
デビュー以来、手綱を握ってきた美幸はオーバードライブに強い可能性を感じていた。
いわゆる2強のアルバトロスとシューティングレイは中距離からクラシック・ディスタンスがベストと分析していた美幸は、クラシック・ディスタンスから長距離はオーバードライブの距離と確信していた。
すでにアルバトロスのクビ差前に出ている。
(あとは・・・!!)
美幸は外のシューティングレイに意識を移した。
『さぁ!残り200を切ってアルバトロスは少し遅れた!
オーバードライブが先頭!
しかし半馬身後方にはシューティングレイ!
レースは2頭に絞られた!』
(ちくしょう!)
三田崇は全身を悔しさで震わせた。
多少の距離の不安はあった。
そして前で力を押し切るアルバトロスには不向きな展開を、早めの追い出しで迫ってきたオーバードライブに作られてしまった。
(この大一番で美幸と新之助にまけるなんて・・・!!)
隣を駆け抜ける同期二人の影を、三田は見送ることしか出来なかった。
5
「はじめまして!岡恭一郎です!」
野田はこの土壇場で初めて岡と出会った頃を思い出していた。
屈託のない笑顔で挨拶にきた岡。
聞けば自分を目標にしていると言う。
世には三田崇、的矢均などの名実ある騎手がいるのにもかかわらず。
この日から、野田と岡の交流が始まった。
「あの・・・ひまわりちゃんと結婚させていただきたいのですが・・・。」
妹と付き合っているのは知っていた。野田は何度も実家に岡を招待していた。だから二人の距離が近づいていたことは野田にも原因がある。
いや、こうなることを望んでいたかもしれない。
「野田先輩、僕はあなたのような騎手になりたいんです。」
「野田先輩、今日は負けませんよ!」
人懐っこい岡にいつしか本当の弟のような思いを寄せていた。
野田はムチを振り上げた。
(岡くん!見ててくれよーーーーッ!!!)
振り上げたムチは渾身の力をこめ、シューティングレイに打ち込まれた。
『さぁ!オーバードライブが先頭!このままオーバードライブで決まりか!?
いや!?シューティングレイだ!
シューティングレイが一気にオーバードライブを捕らえた!
先頭はシューティングレイ!
クラシック最後の一冠はシューティングレイが1着!
野田新之助!見事に亡き岡恭一郎の夢を叶えました!
2着はオーバードライブ!
3着はアルバトロス!
4着クラウディハート!
5着にやっとストライクドリーム!
戦国クラシックの最後はシューティングレイです!』
レース後の各陣営
1着シューティングレイ
騎手、野田新之助
『最後はよく伸びてくれた。
亡き義弟にいい報告ができます。』
角井調教師
『どうしてもクラシックを勝たせたい馬だった。本当にいいレースだったね。』
次走、ジャパンカップ
2着オーバードライブ
騎手、浦河美幸
『悔しいですね。力では決して負けてない。今後に期待してください。』
次走、ステイヤーズステークス
3着アルバトロス
騎手、三田崇
『少し距離が長かったかな。
次は万全に整えて行きたい。』
次走、有馬記念
4着クラウディハート
騎手、山形茜
『距離が向かなかったかも。
次は適距離で勝負したい。』
次走、香港マイル
5着ストライクドリーム
騎手、安田富一
『直線でまったく手応えがなかった。敗因はとくにないね。』
次走、ジャパンカップ