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【10万PV!!】 競馬小説ドリームメーカー  作者: 泉水遊馬
シーズン6 chapter4
340/364

Starting Over-11

13

『京都大賞典GⅡ!

続々と枠入りしていきます!』


「ガーーーーーーー!」

ドリームメーカーが吠える。


(相変わらずうるさい馬だ。)

三田がドリームメーカーを睨みながら思った。

ロンバルディアに騎乗していた頃からの付き合いだ。正直、大嫌いな馬である。

しかし、ドリームメーカーと敵対する時が一番燃える。


(レースにお前がいると、若手の頃を思い出す。

今日も負けん!)

エクスキューションを落ち着かせた三田は、ゲートに入っていった。


(さぁ、久々に苦労する馬に乗ってしまったな。

ドリームメーカー。今日は俺の言うことを聞いてもらうぞ。)

的矢は稀代の暴れ馬をレースに集中させる作業をしていた。


『各馬体勢完了!



スタートしました!』


『スタートして飛び出したのは1番人気セキトバ!


エクスキューションは中団から!


ドリームメーカーは後方から!

16頭ほぼ一塊で第一コーナーに向かいます!』



スタート直後、的矢はドリームメーカーの手綱を思いっきり絞った。


的矢はドリームメーカーが追い込みでこそ力を発揮できると判断したのだ。


力で押し切る先行力が印象強いドリームメーカーだが、後方待機で追い込める瞬発力が最大の武器である。

これまでもロンバルディアらのライバルたちにも鋭い末脚で渡り合ってきた。

それはドリームメーカー自らが本能で取ってきた策である。

しかし今のドリームメーカーは騎手の操作によって後方に下がっていく。

本来のドリームメーカーならば折り合いを欠いていただろう。


だが的矢に従い、後方でじっくり脚を溜めている。


「武田先生!?ドリームメーカーが・・・騎手の言うことを聞いています!!?」

驚く原。


「いや・・・折り合っとるが、ヤッコサンは戸惑っているな。

知らず知らずに従ってしまっとるのだ。

あれが的矢の『強制力』だ。

浦河や村木は折り合いを一番に考え、ヤツを気持ちよく走らせる事を念頭においてきた。

今まではそれでよかったのだが、これから若い馬と戦っていくためには戦況に応じた策をとる必要がある。


今のヤツにとって的矢の手綱は支配そのもの。


的矢の最大の武器である『マーク屋』のスキルは、まず己の馬を支配してこそ発揮できるんだよ。


的矢なら、あのインフェルノですら支配できたかもしれん。


恐るべき騎手だ。」

武田は少し興奮気味に早口で言った。


14

レース1週間前。


「まさか、まだ武田さんがドリームメーカーの世話をなされていたとわね。噂には聞いていましたが姿を見て正直驚きましたよ。」


ドリームメーカーの初調教が終わり下馬した的矢は武田に歩み寄った。


「ハハハ。ただのおせっかいでやっとるのだ、厩舎の連中は迷惑しとるだろうよ。」

武田は笑顔でそれに応じた。


二人で調教スタンドのベンチに座ってトラックを眺めていた。


「的矢よ。覚えているか?

お前さんにヤツの騎乗を依頼した時の事を。」


「ええ、覚えていますよ。

10年前になりますね。今思えば受けていればよかったと後悔していますよ。これだけの活躍をするとは思っていませんでしたからね。」


「わしは前々からお前さんこそヤツの鞍上にふさわしいと思っていた。

やっと念願かなって何よりだワイ。」


「まぁ、乗るのは京都大賞典だけですがね。」


「いや・・お前さんはきっと今後も乗る。ヤツの魅力は乗ったヤツにしかわからん。そして乗った騎手はヤツの世界に引きずり込まれて抜け出せなくなる。

『ドリームメーカー劇場』ってみんな言いよる。お前さんもその一員に絶対なるだろう!」


「しかし私にはブラックエンペラーがいますから、天皇賞、ジャパンカップ、有馬はそちらで・・・」


「ハハハ!京都でわかるさ!ハハハ!」


憮然顔の的矢と笑顔の武田。


10年前、ドリームメーカーのデビュー戦。

騎乗予定だった村木義男が直前のレースで落馬。

騎乗不可能となり焦った武田は、ジョッキーズルームに駆け込み的矢に依頼をした。

しかし、トレセン内では暴れ馬で有名だったドリームメーカーに難色をしめした的矢。

あえなく新人だった浦河美幸を無理やり騎乗させる事で解決をみた。

これがドリームメーカーと美幸のコンビ結成の真相である。



「的矢よ。お前さんの『強制力』はヤツに通用するか・・・見せてもらうぞ。」


「それは任せてください。

あの馬は長年、敵馬として見てきました。

キッチリ『支配』して見せますよ。」


ガッチリ握手した二人。


ベテラン騎手による、ベテラン馬の再教育がこの日より開始された。


15

『バックストレッチに舞台を移して馬群はまだ一塊!

先頭はセキトバ!

エクスキューションは馬群の中ほど!

ドリームメーカーはシンガリ追走!

残り1000を切った!』


(よし!それでいい。

まだだぞ・・・ここで待機だ!)

的矢の手綱に従うドリームメーカー。

その首筋にはクッキリと脈が浮き出て、怒りとストレスが見て取れる。

今までのドリームメーカーにとっての騎手は『乗せてやっている』存在だったかもしれない。

しかし今の的矢は『乗られている』のだ。

初めての感覚に戸惑いながらも従ってしまう己に戸惑っていた。


この1週間、坂路を手綱を引かれたまま駆け上っていた。

今までなら力の限り行っていた調教も、的矢によって調整されてきた。

これまでドリームメーカーになかった騎手との上下関係が構築されたのだ。

的矢の『強制力』はこの上下関係で馬を従わせることにより『マーク屋』のスキルを

発動させる。


ミホノブルボンの三冠阻止や、メジロマックイーンの天皇賞3連覇阻止をしたライスシャワー。

有馬記念でスペシャルウィークをハナ差で下したグラスワンダー。


過去の名馬に発動してきたマーク屋が、1頭の暴君を更なる境地へ誘おうとしていた。

削除

『さぁ!全く体勢変わらぬまま残り600の標識を過ぎた!


ここでセキトバがペースを上げた!


エクスキューションも外へ出して5番手あたり!


ドリームメーカーはまだ動かない!


この体勢で淀の直線へ向いた!』


的矢は行きたがるドリームメーカーをなだめながら600の標識を確認した。


(さて・・・調教では見せてもらえなかったお前の末脚を信じているぞ。

あのロンバルディアを下した豪脚・・・俺はまだ覚えている・・・!)

的矢はムチを振り上げた。


的矢の振り下ろしたムチは、ドリームメーカーに打たれた。

その瞬間加速したドリームメーカーの首がグッと下がり的矢は前のめりになり振り落とされかけた。


(なんだ!?この瞬発力は!?

とうにピークは過ぎているはず・・・ここまで力が残っているのか!)


的矢は跨る12歳馬に脅威を感じた。調教ではいいタイムを出し順調さは見せていた。しかしそれはあくまでも12歳馬として若い馬と戦えるといったプラス思考な評価だった。

だが今一瞬、的矢の感じた体の無重力感はこれまで感じたことのない衝撃だった。

16


『残り400!

セキトバが先頭!3馬身後ろにエクスキューションも迫ってきている!


外から1頭やってきた!


ドリームメーカーだ!?


ドリームメーカーが3番手!


凄い脚でシンガリから追い込んできた!』


『セキトバにムチ!

ここでさらに後続を引き離しにかかる!


エクスキューションも伸びてきているぞ!


しかしドリームメーカーがさらに伸びているぞ!!


しかし先頭はセキトバ!

200を切ってさらに3馬身に差を広げている!


ここでなんとドリームメーカーが2番手に上がった!

凄い脚だ!


だがこれはセキトバがセーフティーリードか!?』



(よくやった。ここまでの脚を出せれば充分だ!)

的矢は怒涛の如くの追い込みでエクスキューションまで差しきったドリームメーカーを労った。

前方3馬身にいるセキトバの強さに2着確保へと切り替えた的矢だったが、残り100を切ってドリームメーカーの様子が変わった。


(ん!?どういうことだ!?)


ドリームメーカーの首の位置がさらに下がり、肩のラインより下の位置に頭が下がった。


その直後、的矢の体が後ろに引っ張られた。

さらに凄まじい加速を見せたドリームメーカー。

ベテラン名手を振り落とす勢いでセキトバに並びかけた。


『セキトバが余裕で・・・

いや!?

外からドリームメーカーが並んだ!!

2頭並んでゴール!


わずかにセキトバか!?


しかしドリームメーカー素晴らしい末脚!12歳にしてまだまだこのレースぶり!』


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