Starting Over-7
8
『有力馬二頭並んで直線へ!
三番手にケルベロス!
四番手にドラゴンアマゾン!
レースが一気に早い流れに変わった!』
『残り200!
なんとなんとゾディアックとプロミネンスがここに来て後続を引き離した!
マッチレースの様相を呈した展開!
二頭どちらも譲らず!
これはレベルが違う!
残り100!
二頭共激しくムチが入っている!
プロミネンスが頭ひとつ出たぞ!
プロミネンスだ!
凱旋門賞はプロミネンスが1着!
ゾディアックが惜しく2着!
4馬身遅れて3着ケルベロス!
ドラゴンアマゾンは4着!
昨年は2着だったプロミネンス!
見事な勝利で前走キングジョージの借りをゾディアックに返しました!』
9
血の限界点。
それはサラブレッドの進化の終着点を意味することではない。
あらゆる適正が求められている今の競馬事情に即した馬は今後も誕生していくだろう。
では限界点とは?
サラブレッドが生まれた時からのテーマであるスピードである。
この部分を語る上で欠かせない二人の人物がいる。
世界中の90%のサラブレッドの体内に流れていると言われている2頭の名馬の生産者である。
ノーザンダンサーの生産者、E・P・テイラー。
ネアルコの生産者、フェデリコ・テシオ。
至極独創性の溢れた二人の巨匠。
彼らの時代から現代に至るサラブレッドたちが、血の使者としてつながっている。
1935年。
当時、二流競馬国と英国紳士から侮辱や侮蔑を受けていたイタリアのドルメロ牧場で、近代サラブレッドの祖ネアルコは誕生した。
フェデリコ・テシオの配合において『近親繁殖』『ニックス』『最良の種牡馬』の三要素を重視していた。
しかしその一方で、近親繁殖には危険な落とし穴があることを、自身の著書で書き記している。
近親繁殖において遺伝子の弊害を発生させる危険性があり、精神的や肉体的にも障害もって生まれたりする兆候が顕著に出てくる。
だがひとたび成功すれば天才が誕生し、その天才によってサラブレッドが進化してきたのは動かざる事実である。
しかし天才がすべて成功したかというと、決してそうではない。種牡馬や母親として遺伝能力がなかったりするケースも多かった。
つまり、強い近親繁殖で生まれた競走馬としての天才は、種牡馬や繁殖牝馬として大成功の可能性もあれば、まったく大失敗の可能性もはらんでいる。
フェデリコ・テシオはこの危険性をさして『人間の間違いを、自然が制御したり、排除したりする』といっている。
もっとも彼自身が近親配合を全面的に否定する論者ではなかった。
名馬や名種牡馬を生産することが主たる目的なら近親繁殖は重要な要素だともいっている。
そんな思想を持って生まれたのがネアルコであり、ネアルコの血統はまさに『セントサイモンの血の凝縮』そのものであった。ネアルコの5代血統の中にセントサイモンの名が4つもあるのだ。
『ネアルコ』→『ファロス』→『ファラリス』→『セントサイモン』と続く血統の流れだけを拾っていけば、近親繁殖だけがすばらしい成功を残してきたかのようにみえる。
しかしこれは未来への『血の警告』を発しているのだ。
その1番の理由に、ネアルコの最高後継種牡馬となったナスルーラがまったくの異系繁殖で生まれている事実も大きい。
しかもナスルーラ自身もアメリカ在来の繁殖牝馬、すなわち異系の血統を相手に大成功をおさめている。
言い換えれば、ここにきて近親繁殖が行き詰まりを見せていたのである。
天才種牡馬ともなれば、その影響力は一代限りなどというものではない。
しかし天才の血を重ねることは、磁石のマイナスどうしが反発するのと同じで喧嘩させることになる結果もあるのだ。
このアメリカでの血の変換を発展させたネアルコの血は異系繁殖という道を辿って世界中に広がっていく。
そしてドラマは時を経て1961年のカナダ・ウインドフィールズ牧場へとたどり着く。