Starting Over-6
8
10月1週
フランス・ロンシャン競馬場。
「しかし、今日の凱旋門はそうそうたるメンバーが揃ったね。」
視察で渡仏してきている吉野照文が言うと、
「勝つのは我らがドラゴンアマゾンだ!」
龍田が鼻息荒く言い放つ。
出走頭数が9頭。
少ない出走数だがメンバーが世界の縮図のような豪華な顔ぶれとなった。
「ジャンヌダルクは凱旋門ではなくオペラ賞か。」
吉野照文がさらに言う。
フランスの女傑ジャンヌダルクは凱旋門から、牝馬限定のオペラ賞に路線を変えた。
『ロンシャンに集いし世界の代表馬!
今年も世界一の名馬を決める凱旋門賞がやってまいりました!
1番人気はゾディアック!
競馬大国アメリカの最強馬!
前走キングジョージを見事に制しました!
鞍上はバッド・デイビー!
2番人気プロミネンス!
鞍上はキャスバル・ダイク!
3番人気ケルベロス!
鞍上マイケル・ロジャース!
4番人気ドラゴンアマゾン!
鞍上は野田新之助!
5番人気は地元フランス馬キングブライト!
鞍上オリバー・ぺリア!
6番人気ドイツからプファルツ!
鞍上カール・ファンデス!
7番人気イギリスからヤードバーズ!
鞍上レスター・アゴット!
8番人気アイルランドのヴァンファーレ!
鞍上はビル・ベイカー!
9番人気イタリアのインターミラノ!
鞍上ジョルジュ・ロッシ!
以上9頭です!』
『歴史に名を刻むべく・・・
凱旋門賞スタートしました!
』
レースのゲートが開いた瞬間、大観衆にどよめきが走った。
真っ先に飛び出したのはゾディアックだった。
そしてそのすぐ後ろについたにはプロミネンス。
最有力の2頭が逃げる展開でレースが始まったのだ。
「我らがドラゴンアマゾンは・・・おお・・・5番手あたりか・・・!!」
龍田仁がマンジリとターフを見つめて呟く。
「野田はいい騎手になった。デビューした頃は、どうなるかと思ったが、同期の二人に引けを取らん成長を見せている。」
吉野照文が龍田に言った。
『ゾディアックとプロミネンスが併せる形でレースがスタートしました!
後続は2から3馬身後ろを追走!
日本のドラゴンアマゾンは5番手あたりか!?』
「ミスターヨシノ。こちらにいましたか。先ほどチラッと姿を見かけて探していたのですよ。ミスタードラゴンもいたんだね。」
ベル・メッツが吉野照文ら二人に声をかけてきた。
「ミスターメッツ。こちらこそ挨拶が遅れて申し訳ない。」
吉野照文が代表で挨拶をする。龍田仁はレースに夢中で見向きもしていない。
三人は目線をターフに移した。
「ミスターヨシノ。あなたの社来ファームはアジアではゴドルファンに次ぐ実力者だ。
だからあえて聞くが、最近の日本馬は一時のピークを過ぎた感がある。
あれだけ世界に通用できる馬を排出していたのに、今は陰りが見えるのは私だけではないはずだ。」
ベル・メッツの突然の問いに少し怯んだ吉野だが、すぐに切り替えて自分の持論を話始めた。
「確かに、日本の血統の進化は限界点にあると思います。
しかしこれは日本だけではなく、世界的な事ではありませんか?
インブリードによって繰り返されてきた近親配合による血統強化は、特定の血に偏りを見せ在来血統の淘汰を早める結果となった。
欧州などは今のレースレコードが100年前からほとんど変わらないことが、それを証明している。
日本の飛躍的なレベルアップはもともとのレベルの低さと馬場改善によるものが大きい。そして輸入種牡馬との異系配合も新たな血の活性化に一役買っています。
ここからが欧米との本当の勝負だと前向きにとらえていますよ。」
「なるほど。ミスターヨシノが言うように確かに異系交配が最近の活躍馬に多い。
だが牝系のクロスを軽んじる異系配合は、未来にまったくつながらない。
日本の在来血統が輸入種牡馬によって淘汰されいく昨今、社来はどういう進路を示すのか?私は凄く興味がある。
このままでは本当にアジアはゴドルファンに牛耳られる。
社来がダーリーの防波堤になってもらわねば、我らアメリカにも影響しかねないからね。」
ベル・メッツが笑顔の中にも鋭い眼差しで吉野に詰め寄る。
「まあ、その答えはいずれでお見せしますよ。」
吉野はさらに強い眼で答えた。