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【10万PV!!】 競馬小説ドリームメーカー  作者: 泉水遊馬
シーズン6 chapter4
333/364

Starting Over-4

6

2歳新馬が続々とデビューする9月。

3歳クラシックは最後の1冠菊花賞のトライアルを迎えていた。


セントライト記念はアルバトロスが快勝。

三田崇の技も光り、見事な圧勝逃亡劇で菊獲りをアピール。2着のクラウディハートは大苦戦の結果であった。



そして神戸新聞杯。

1番人気はシューティングレイ。

2番人気はストライクドリーム。

3番人気はドラゴンディール。


ダービー馬を差し置いて1番人気に推されたシューティングレイ。

その騎上には野田新之助の姿があった。

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『スタートしました!

ドラゴンディールがスッと前に出ます!

続いて7番人気のストライカー!ベテラン的矢が2番手にピッタリつけました!

白百合ステークス勝利から久々のレース!


人気のストライクドリームとシューティングレイはいつものように最後方から追い込みの位置取り!

菊花賞の切符をかけて、16頭が疾走していきます!』


2週間前・・・。


岡恭一郎の死によって主戦騎手を失ったシューティングレイ陣営は、浦河美幸に騎乗依頼を出した。

この世代での騎乗馬オメガフライトが菊花賞ではなく、毎日王冠から天皇賞(秋)へのローテーションを取ったため、鞍が空いていたのだ。


しかし、美幸はこの前の週からアメリカでの騎乗が決まっており断念。

有力馬だけに、実績ある騎手を乗せたい陣営は、再び鞍上探しに翻弄していた。

もちろんこのチャンスをものにしたい騎手から騎乗の懇願も数多くあったが、調教師の角井はすべてを断った。


実は角井の心の中に最も乗せたい騎手は野田であったが、岡の死でひどく落ち込んだ姿を見るたび逆に乗せることは出来ないと考えていた。


さらに一週間経ち、菊花賞トライアル神戸新聞杯が週末に迫ったころ、野田のお手馬であるカスカベアクションが怪我で秋シーズン絶望とのニュースが入った時、角井はある行動にでた。


野田にシューティングレイへの騎乗依頼を出せなかったもう一つの理由に、カスカベアクションを管理する中田調教師との関係が大きくあった。

中田は野田の師匠であり、野田はすべてにおいて中田厩舎の馬を最優先する傾向がある。


そして中田と角井は同じ師を持つ兄弟弟子であり、悪い意味でのライバルであった。ようは極めて仲が悪い。


だが野田に対しては高い評価をしている角井は、少しずつではあるが野田に自分の管理馬を騎乗させていた。


そして自分の弟子だった岡と義兄弟同様の関係だったことも、野田に対する親心を持たせていた。


「おい、新之助!」

トレセンの片隅でボンヤリしている野田に角井が声をかけた。


「ああ・・・角井先生・・・。

なにか御用でしょうか?」


連れない態度の野田を自分の厩舎につれていった。


厩舎までの道のり、角井は当たり障りのない会話で場をつないだ。

「新之助って海外GIいくつ勝ってるっけ?」


「2勝ですけど・・・。」


「そういえば三田ってまだ海外の大きいとこはまだ勝ってなかったろ?」


「まぁ・・・そうですね・・・。」


「・・・・浦河はアメリカだって?毎日王冠には帰ってくるんだろ?」


「さぁ、?わかりません・・・。」



「お前も今年は凱旋門に初挑戦だな・・・。がんばってこいよ!」


「はい・・・・。」


話が続かなかった。

二人は厩舎につくと馬房に入った。

「先生・・・、お話ってなんですか?」

すこしだるそうに野田が角井に聞いた。


「まぁ・・・ゆっくりしていけや。」

角井は椅子を差し出し野田を座らせた。


「新之助、この馬どう思う?」

角井が自分たちの座る場所のすぐ前の馬房にいる馬を指差した。


「どう思うって・・・。」

野田が戸惑いを見せている。


「シューティングレイって馬なんだが、なかなか大きいところで勝てなくてな。」


角井の言葉に、野田は答えない。


「馬には十分力があるはず。俺の弟子に乗せていたのだが、まだまだ力不足だったかな・・・?」


野田はまだ口を噤んでいる。


「俺の弟子が・・・恭一郎が今のお前の姿みたらがっかりするだろう。

こんなヘタレに憧れてたのかってな・・・。」


「先生。そんなお話ならオラ帰ります!!」

席をスッと立つ野田。


突然、角井は野田のむなぐらを掴み大声で捲くし立てた。


「座れ!このばかやろう!

お前ひとりで悲しみのどん底にいますって顔しやがって!

みんな悲しみこらえて前に進んでんだよ!

俺や厩舎のみんな!

岡のお母さんだって・・・!

そしてひまわりちゃんもな・・・!

お前だけが辛いんじゃねぇ!!


それになんだ先週のレースは!?

新人みたいな失敗繰り返しやがって!


そんなことじゃ・・・俺は恭一郎がかわいそうで・・・!」


そういうと強引に野田をもう一度椅子に座らせた。


野田はうなだれるようにうつむいていた。


普段は温厚で怒ったところなど見せたことがない角井の剣幕に、野田は内心驚いていた。


少しの沈黙の後、息を整えた角井が静かに口を開いた。

「新之助。俺は、お前はいつか世界でも指折りの騎手になるって思っているんだ。

今はお前の同期の三田が日本競馬を引っ張り、浦河が世界に名を轟かせている。

しかしいずれ世界を獲るのはお前だってな。


お前は勝利への嗅覚が冴えている。

だからレースであれだけ大胆な騎乗ができるんだ。


恭一郎はそんなお前のスタイルに憧れて、そして目標にしていたのだと思うよ。」


先ほどとは打って変わった角井の優しい口調に、いつしか野田は、伏せていた視線を角井に合わせていた。


「新之助、恭一郎の夢をお前がつないでくれ。

シューティングレイ。

乗ってくれないか?」


「え・・・?

シューティングレイにですか・・・?」

驚きと戸惑いの姿を露にする野田に、

「こいつはこれからまだまだ進化する!

今までは苦渋を舐めさせられたが、ここからがこの馬の本番だ。


まさに・・・


お前と一緒だろ?」


角井は少し笑みを含んだ表情で野田に言った。


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