Starting Over-2
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8月3週。
『札幌記念!最終コーナー周ってセキトバが先頭!
グングン後続を引き離す!
2番手のスピードオブライトは伸びてはいるが差は広がっていく!
これは強い!
3歳馬セキトバが1着でゴール!
ラジオNIKKEI賞に続いて重賞2連勝!
初の古馬相手に完勝です!
1番人気昨年の皐月賞馬スピードオブライトは2着に敗れました!』
ジョッキールームに引き上げてきたスピードオブライト騎乗の岡恭一郎は少し残念な表情で次のレースの準備を始めた。
「岡く~ん。残念だったね~~
オラは7着だったぞ~~」
野田新之助が岡の肩を叩きながら声をかけた。
「あっ・・・お兄さん。」
翌日、野田の妹のひまわりと結婚する岡は、すでにお兄さんと呼んでいた。
「ひまわりもテレビで見ているだろうから、次の最終レースは独身最後の勝利を見せて欲しいぞ~~」
野田の言葉に岡は、
「はい!でも・・・1番人気はお兄さんの馬ですね・・・。
絶対に勝ちますから!」
とギラリとした目で言い放った。
「よし!勝負だ!」
野田の威勢のいい声と共に、二人は最終レースのパドックへと向かった。
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【ホースニュース緊急号外】
『人気騎手
岡恭一郎死亡
札幌最終レースでの悲劇…!』
夏競馬も佳境を迎えた札幌記念の直後に大惨事がおこった。
最終レース、1600万下条件戦で3番人気のオリハルコンに騎乗した岡恭一郎騎手(24 角井厩舎所属)が最終の直線で落馬転倒。
オリハルコンは右前脚骨折により安楽死。
頭部より落下した岡騎手は、すぐに病院に搬送されたが2時間後に死亡。享年24才。奇しくも翌日は自身の結婚式を控えていた。
『次世代の天才』と将来を期待され、人気も高かっただけに、若すぎる死に競馬界は悲しみに包まれている。
岡騎手は中学卒業後に競馬学校騎手過程に進み、デビューした年は新人賞に輝く。
三年目にはエリザベス女王杯で初GI制覇。
通算GI4勝。
現在もスピードオブライト(牡4)やシューティングレイ(牡3)などの有力馬の主戦騎手であった。
葬儀は身内だけで行われる。
喪主は母の岡めぐみさん。
ターフで散った若い命に心から冥福を祈りたい。