表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【10万PV!!】 競馬小説ドリームメーカー  作者: 泉水遊馬
シーズン1 chapter4
33/364

稲妻-2

8月二週。

とうとうドルフィンリングのデビューの日となった。

俺は前日から飛行機で福岡入りし、小倉競馬場に到着した。

瑤子と宝田は留守番。少人数の牧場だ。みんなで行くわけにはいかない。


第3R芝1200新馬戦。9頭立てで行われる。


競馬新聞を買い、第3レースを開いてみると…


ドルフィンリングは無印。オッズを見ると7番人気となっていた。


馬主席には有名所のオーナーは見当たらない。やはり夏は北海道シリーズである。全国区の馬主のほとんどが北へ向かう。



レースのパドックが始まり下見所に降りる。


ドルフィンリング…震えてるじゃないか~!


なにが成長しただ!?


明らかに怯えている。


馬を引く原辰巳が俺に気づき小さくガッツポーズを見せた。


…なぜガッツポーズ?


俺は意気消沈して馬主席に戻ってきた。



ドルフィンリング…無事に走ってこい!


俺の願いをかけていると、モニターにドルフィンリングが移し出された。鞍上の村木は実に3年ぶりの平地レース。しかし愛馬に親友が股がるのだ、胸は高鳴る!牧場で瑤子と宝田もホースチャンネルで見ているはずだ!



『各馬枠入り完了…スタートしました!』


最内枠のドルフィンリングは好スタートしてハナをとった!


『ドルフィンリングがハナに立って逃げる構え、その後ろに……以上9頭第3コーナーを越えて通過…』


おまえ…本当にあのココロなのか…!?


レースを引っ張るドルフィンリングの姿を見て胸が熱くなった。

あんなに臆病で…あんなに震えていたココロが、今堂々とターフを駆け抜けている…。


『さぁー直線、ドルフィンリングまだがんばっている!まだがんばっているぞ!』

もう手に握られている競馬新聞はグッチャグチャだ。

「ドルフィンリング行け~!!」

俺は叫んでいた。



『さぁ後100メートルで…先頭は一番人気テンサイバカボンに変わってゴールイン!』


結局残り100メートルで力尽き、終わってみれば6着。


俺は敗けたドルフィンリングに絶賛の拍手を贈った。


これなんだ…きっと親父が求めていたものは…


ずっと昔…ファンタジアを大きなリスクと引き換えに持ち馬にすると言い出した親父の事を思い出した。



親父…こりゃやめられないよな…。


電話口で宝田が興奮していた。

「敗けはしましたが、いっぱしの競走馬になりましたな~」


瑤子にも替わってもらった。

「ココロ凄かった!いっぱい誉めてあげてね」

電話の声もかわいい…。

俺は馬運車に乗せられて栗東に引き揚げるドルフィンリングに最大の絶賛で体中撫でまわした。



その夜、武田調教師と原辰巳、そして村木義男を福岡中州の

高級鮨処岡部鮨

に接待した。



「武田先生…先日は失礼を言いまして申し訳ありませんでした」

宴は俺の土下座で始まった。


俺の土下座を見た武田調教師は、

「おい若いの…大トロ食っていいか?」

もうなんでも食え!



村木が今日のレースを振り返る。

「やはり前につけた方がいいですね。逃げ方によっては臆病なトコがいい風に出てくるかもしれません」


なるほど…。


今度は原辰巳が熱く語り始めた。

「いやよくあそこまで走ってくれましたっスよ!

次はもうちょっといい線行くと思うっス!」


村木から聞いたが、臆病でデリケートなレディーであるドルフィンリングの心のケアを原辰巳が毎日の丁寧なカウンセリングで支えてくれたらしい。もちろん調教で毎日乗る村木もドルフィンリングに信用を獲る為にコミュニケーションを怠らないらしい。


ドルフィンリングが安心して背中を差し出すのは村木しかいないそうだ。



大トロをバカ食いしながら武田調教師が口を開いた。

「ドルフィンリングはしばらく休ますぞ。

次はダートで使う。」


俺は意外だった。この調教の鬼の口から休ませるなんて言葉が出てくるとは…。


「あの馬は脚元が非常に弱い。それとダート向きだ。」


俺は競馬のプロ達からいろいろな事を学んでいく。

この武田調教師は、きっと俺以上に馬を理解しそして愛しているんだ。



突然、原辰巳が思い出したかのように言った。

「あの~ぅ…先生?ドリームメーカーは今後どうしますか?」


武田調教師から返答はなかった…。


やっぱり不安だ…。


牧場に帰郷した俺は、また牧場作業をこなす毎日だ。そりゃ持ち馬が2頭しかいないもん。基本的にはこっちが本業なのだ。



宝田が院長を勤める医療施設はなかなか評判がいい。


《ドラゴンアロー記念乗馬クラブ》も近隣牧場との共同経営で、会員数は増加傾向だ。

ドラゴンアローもこの町のマスコットキャラクターとして全国からの観光客に愛されている。



まさか自分が馬産業を続けるなんて思ってなかった。ましてや馬主になるなんて…。


遠くで作業している瑤子の姿が見える。


俺はここで生きていこう…馬と共に…



そしていつか…瑤子にプロポーズしよう…



いつかきっと…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ