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【10万PV!!】 競馬小説ドリームメーカー  作者: 泉水遊馬
シーズン6 chapter3
324/364

東京優駿-2

2

安田はターフに目をやった。


日本国復興の鍵を握るサラブレッドたちが本馬場へと入場していた。


「私は日本の競馬にたいへん興味があってね。

特に・・・ドリームメーカー。

あの馬は是非、我がダーリーに欲しい。

しかしミスタートビタに何度も打診しているがいい返事はもらえていない。

きっと来年新しく建ちあげるダーリー・オーストラリアの目玉種牡馬になると思うのだがね。」

今回の日本ダービー観覧の前日に行われた記者会見でモハメッド殿下が述べた言葉だ。


世界中の血統が集結する日本競馬に興味があると述べた点にはすべての記者がうなずいた。

しかしドリームメーカーの件には眉をひそめる記者が数人見て取れた。


安田もその一人で、【ダーリー特有の血統構築】を連想したのだ。


ここ数年のダーリーの有力種牡馬はブレイブハートなどの現役時代は非ダーリー所属馬が多い。


特に日本からのサンデーサイレンス系の馬が多く購入され、世界中のダーリー拠点にけい養されている。


日本にダーリー・ジャパンという拠点を立ち上げ15年。

新たな血の構築の中間地点としての役割も担ってきた事は、安田の著書「ダーリーの黒幕」で明らかにされた。


ダーリーの総本山であるドバイの「ゴドルファン」。ここを世界の拠点として、USA、EURO、ジャパンなどの世界中へ発信していく。

そして完成された血統が再びドバイへ帰ってくるのだ。


さらに完成された馬の血が、ドバイで熟成され再び世界へ放たれる。その繰り返しによりダーリーは世界中に活躍馬を生み出しているのである。


その大きな意味で重要な位置にあるダーリー・ジャパン・・・いわゆる日本のマーケット拡大はダーリーの発展に影響を及ぼすビッグビジネスであり、モハメッドが今回の来日も大きな意味があった。

安田の読みは確信になりかけている。


モハメッドは明日のダービー馬を狙っているのだ。

削除

ダービー馬を狙う。


もちろん購入するという意味だ。


今年の日本ダービーはまさにモハメッド好みの馬が多い。


安田は明日の出馬表に目をやった。


皐月賞馬アルバトロス。

すでに大種牡馬となりうるロンバルディアの全弟。実績ある血統でありサンデーサイレンス系の筆頭ディープインパクト産駒。母父には凱旋門賞馬トニービン。母はエアグルーヴ。ロンバルディア同様の人気が予測される。


皐月賞2着のシューティングレイ。ロンバルディアの3世代目の産駒で、世界中で需要が高まるこの血は成功を約束されている。


オメガフライトもダーリー所有のステージクロス産駒。ダーリーEUROで種牡馬として活躍しているが、初年度産駒であり大きな期待をされた1頭。今や貴重となったパーソロン系のモダンな血に、母イーストフライトのスピードが加わり、今後の配合で爆発的な進化が期待させる血統である。


クラウディハートは5年前にダーリーが購入を断念したベルノーファソード産駒。その父のステイゴールドはドバイシーマクラシックの覇者。その勝利を目の前で見ていたモハメッドが一番初めに脅威に感じたサンデーサイレンス系である。


モハメッドが1番関心を示しているのがストライクドリーム。ダーリー最大級の期待を背負って種牡馬入りしたニュータイプ産駒。わずか2世代の種付けで早逝したニュータイプの後継候補はまだいない。欧州馬がほとんどの初年度産駒からは活躍馬がでず、ストライクドリームら2世代目からも未だ父を超えうる馬は出ておらずにいる。

300頭の産駒の中で唯一父の流星を継ぐストライクドリームに最後の望みをよせるモハメッドの心中は手に取るように明らかであった。


(明日の勝者は、この最悪の不景気の中、確実に大金でドバイへ売られることになるな・・)

安田は日本の有力馬が多数ダーリーへ流出する現状に憤りを覚えてならなかった。


けっして馬主の意思だけではない。社来や飛田牧場は金銭だけで動く馬主ではないし、現に飛田牧場はドリームメーカーの超高額の購入打診を断っている。


日本政府の圧力。ドバイに恩を売りたい政府の権力行使が1番の原因であるのだ。


モハメッドも明かな計算が見てとれた。

この記者会見でドリームメーカーの名を出したのも、日本政府への間接的なアプローチであり、「ドリームメーカーを我々に売れ」と言っているのと等しい。

今後、政府による飛田牧場社長の飛田雅樹への厳しい圧力が行われるのは明らかである。

ファイントップ系という傍流血統のドリームメーカーをダーリーが欲しがる理由に、世界的な知名度はもちろん、無尽蔵のスタミナと障害レースの適応能力が大きいだろう。長距離レースのビッグレースが多いオーストラリアと、障害レースの地位の高い欧州とシャトルで供用することにより需要は確実に上がる。


新たなマーケット拡大にドリームメーカーはうってつけな馬なのだ。


世界競馬の覇権を手におさめつつあるドバイと、それに利用される日本。


確定的な上下関係が生まれてしまっている。


しかしこれは日本だけの事態ではない。これまで我が国とともにアジア経済を牽引してきた韓国や中国などもドバイの傘下に治まっている。

中でも韓国は致命的で、大手企業がドバイ系外資企業の相次ぐ買収によりウォンが消滅。

国自体の【ドバイ化】が着実に進んでいる。


それだけ世界に脅威を示しているドバイの前に、日本はただただ頭を深々と下げ媚びることしか術はないのであった。


3

「やあ、飛田社長。

大変な騒ぎに巻き込まれたね。」

馬主席で飛田夫婦を見つけた結城定男が声をかけた。


「いやぁ~まったくいい迷惑です。」

飛田は本当に困ったという表情で答えた。


飛田雅樹の困惑の理由は、もちろん昨日の【モハメッド発言】である。


「政府からなんらかのコンタクトはあったのかい?」

結城の質問に、瑶子が憤慨顔で答える。

「もう失礼ったらありゃしません!突然電話がかかってきて、『すぐにモハメッド殿下にYESと返事するように!』ですって!

絶対に売らないって言ったら、『これは国家命令であり、あなた方に選択の権利はない!』って怒鳴ってきたんですよ!

いつから日本は共産主義に成り下がったんですか!?

頭にきちゃう!」

端麗な顔を膨らます瑶子の表情を見た結城は、

「ハハハ!瑶子さんがいれば飛田牧場は安泰ですな!」

と大笑いした。


苦笑いで頭をかく飛田に、また一人の大物馬主が声をかけてきた。


「おい!飛田!

なぜあの牛を売らん!?」

龍田仁の言葉を無視して飛田はその場を去った。


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