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【10万PV!!】 競馬小説ドリームメーカー  作者: 泉水遊馬
シーズン6 chapter2
320/364

CROSS LOAD-5

5月2週。プリンシパルステークス。

東京競馬場、芝2000m。

ダービートライアル。


このレースに抽選で滑り込んできた1頭がいる。


ストライクドリーム。

1戦1勝。

昨年末のデビュー戦での快勝後、虚弱体質により休養を余儀なくされ、わずか1戦のキャリアでダービートライアルに間に合わせてきた。


鞍上の安田富一も昨年限りの引退を撤回してこの馬でのダービー初制覇に燃えていた。


ゲートに入るストライクドリームと安田を見守る原辰巳調教師の眼は鋭く見つめていた。



『さあ!プリンシパルステークス!スタートしました!

まずは本日2番人気カスカベアクションがハナを切ります!

前走の皐月賞はアルバトロスに果敢に挑み見せ場を作りました!

今日も野田新之助を背に豪快に逃げます!


馬群の中ほど1番人気アドバイザムービーが待機しています!前走の毎日杯2着同様に岩本康成が手綱を握ります!


さあ!最後尾に3番人気ストライクドリームが追走しています!


フルゲート18頭の若駒がダービー目指して府中を疾走していきます!』


安田富一はスタート直後すぐに手綱を絞り最後尾まで位置を下げた。


(今日はゆっくりいこうじゃないか、相棒。)


とにかく直線入り口まで我慢。


ストライクドリームの末脚に絶対の自信を持つ陣営が出した答え、それは『直線一気』であった。


「原先生、ストライクの体調はどれくらい戻っていますか?」

ストライクドリームが休養から帰厩した3月に、オーナーの田辺真が原辰巳に聞いた。


「さすがに無理はできませんが、馬体が成長してきてまスから体質は改善できると思ってるッス!」

原の自信に満ち溢れた顔に、田辺は少し安心した。


ストライクドリームの虚弱体質は、担当厩務員の三杉の献身的な調教によって、肉体改善が実をむすんでいった。

また、武田文吉の助言で435㎏の小さな馬体もビルドアップに成功。


ダービーを見据えた調教が順調に進められた。


しかしダービーへの道のりに大きな壁が立ちふさがる。

乗り込みが始まった4月の時点で1戦1勝。

この実績は、この時期にダービー出走を目指すには絶望的なキャリアである。

ダービーに出られる馬は、同じ年に生まれた同期の9000頭中18頭。

皐月賞の上位4頭、そしてトライアル上位馬。

それ以外はここまでの獲得賞金順に出走が叶う。


ストライクドリームに賞金を加算する時間はなく、トライアルでの出走権利を勝ち取らなくてはならない選択しか残っていなかった。

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当初、ストライクドリームが登録していたレースは3つ。

ダービートライアル青葉賞(GⅡ)とプリンシパルステークス(OP)。

トライアルではないが、勝てば賞金が加算できる京都新聞杯(GⅢ)。


もちろん3レースとも獲得賞金から抽選落ちの可能性は大きく、陣営は1番出走できる可能性が高かったプリンシパルステークスに的を絞っていた。


予想通り青葉賞は登録馬が集まり抽選落ち。

ダービーまで中一週と日程的に避けたかった京都新聞杯は最後の望みであったが、なんとか読み通りプリンシパルステークスに滑り込むことができた。


ダービーの優先出走権は上位1着まで。


ここで出走権を逃せばダービーへの道は完全に閉ざされてしまう。


鞍上の安田は、絞る手綱を小刻みに震わせながら直線に備えていた。

『1000mを通過して先頭はカスカベアクション!

思い切った逃げで後続を8馬身引き離しています!

人気のアドバイザムービーは徐々に前に位置を上げて4番手あたりか!?

そして依然最後方にストライクドリーム!


2番手以下はほぼ団子状態!


さあ!800mを通過して後続集団が差を縮めにかかります!


先頭カスカベアクション!


2番手に上がってきたアドバイザムービーまで3馬身!


ストライクドリームは後方2番手!しかし先頭までは6馬身!


さあ!最終コーナーを周って直線に向いた!』


『先頭はカスカベアクション!

2番手は3馬身差にアドバイザムービー!

ストライクドリームはまだ後方2番手!しかし先頭まで6馬身!後方はほぼ一団です!

残り500!


カスカベアクションがまだ先頭!

野田新之助のムチが飛んでいる!


アドバイザムービーが先頭に並びかける!


2頭並んで400mを切った!


カスカベアクションがあたま一つ再び先頭にたった!

両者譲らず後続を5馬身離して優勝争いを繰り広げている!


おっと!?


一頭外から飛んできたぞ!


3番手にストライクドリームが追い込んできた!


やはり来たぞ来たぞ!


しかし先頭までまだ3馬身!


残り200!

届くか!?』


安田は最終コーナーを周り切るまで手綱を必死に抑えてきた。

途中、行きたがるストライクドリームをなだめつつ、馬群に入れ落ち着かせ、後方2番手で第四コーナーを抜けたときに上手く外に持ち出したのだ。


(さあ!行こう!!)


直線に向いた瞬間に追い出しを開始。


自慢の末脚は一気に加速を強め、あっと言う間に15頭を外から交わし3番手まで上がってきた。


残り200で前に3馬身差。


安田はムチを高らかに振り上げた。


先頭のカスカベアクション鞍上、野田新之助は残り100を切って勝利を確信した。

8戦2勝のキャリアを持つカスカベアクション。

デビュー戦の新馬と500万下を連勝してから惜敗を続けてきたが、最後の粘りは強い武器であり、重賞2着が2回ある。


すでに1馬身つけたアドバイザムービーは口を割り伸びは見えない。


このままリードを保ってゴールすればいい


しかし手綱をしっかりしごき、懸命に最後の追いをする野田新之助の右視界に黒い影が迫っていた。


(おお!?安田のおっちゃん!?

ストライクドリーム!?)


先頭に2頭が並んだ。


安田は直線に入ってストライクドリームの追い出しを開始。

後方2番手から一気に3番手まで追い込んできた。


先頭は2頭。

頭ひとつカスカベアクションが出たところで100を切った。

その間もストライクドリームは伸びを見せていた。


安田は残り100mを確認してムチを振り上げた。


一瞬、安田に緊張感が走った。

虚弱体質が改善されつつあるストライクドリームではあるが、未完成であるためムチの使用は1回と決めてこのレースを進めてきた。


できれば1回も使わずにおきたかったが、残り2馬身を交わすには1発が必要な状況となってしまった。


意を決して放ったムチに凄まじいほどの反応を示したストライクドリーム。


緊張感で一杯だった安田の口元に笑みが浮かんだ。

『先頭はカスカベアクション!

しかし・・・


外から一気にストライクドリーム!

ストライクドリームがカスカベアクションをかわして先頭に立った!


さらに引き離す!


ストライクドリームが1着でゴール!

雷脚炸裂!!


プリンシパルステークスを見事に制したストライクドリームがダービーのチケットを手に入れました!』


原は安堵で胸を撫で下ろした。

(なんとか無事トライアルを勝てた。

後は・・・レース後の馬体の状態だな。)

原は少しの不安とともに、ストライクドリームの待つウイナーズサークルへと向かった。


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