かけがえのないもの-5
7
美幸はゲート前の輪乗りでブラックハートの首筋を撫でた。
(うん、いい仔ね。
落ち着いてるわ。)
そして視線をドリームメーカーに移す。
首をうなだれて微動だにせずうらめしそうに美幸を見ていた。
(だめよ。そんな目で見たって。)
そして美幸は歓声で盛り上がりだしたスタンド前を遠目に見る。
鳴り響くファンファーレ。
(さぁ行きましょう!)
美幸とブラックハートはゲートに入っていった。
ク~ン……
寂しげに鳴いたドリームメーカーも渋々ゲートにおさまる。
『さぁ!有馬記念!
スタートしました!』
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『まずはトップシークレットが行きます!
続いてブラックエンペラー!
2頭が逃げます!
3馬身あいてヴィクトリーロードがこの位置!
その外にデビルマン!
それを見るようにアルフォンス!
その内にファンタジック!
続いてスピードオブライト!
エクスキューションがその後ろ!
ブラックハートは中団やや後方!
その横にピタリとドリームメーカー!
最後方にドラゴンアマゾン!
この展開で一周目のスタンド前を通過していきます!
前の2頭はすでに5から6馬身リード!
早い展開でレースは進みます!』
(チッ…ペースが早い…!!)
デビルマン鞍上の山形茜が手綱を絞りながら渋い顔を見せた。
すでに遥か6馬身前を行く2頭を追うペースは抑えられている。
前に残しつつ好位で最後にかわす理想のレースを狙う山形茜にとって、レースのペースは最重要である。
レースの主導権を握る事が勝つための方程式であるデビルマンにとって、極端なレース展開は【究極の選択】を迫られる。
【前に付く】か【最適ペースに落とす】かだ。
すぐ前にはこちらもハイペースのヴィクトリーロードがいる。
前走ジャパンカップを勝った時の脚を想定するなら離されたくない。
(チッ…行くしかないか…)
茜はヴィクトリーロードのペースに付いていく位置をとった。
8
「ちょっと!?やめなさい!!」
後方集団では【イザコザ】が勃発していた。
ガウ!ガウ!ガウ!
隣でドリームメーカーが一生懸命ブラックハートに因縁をつけている。
「浦河すまん!
こら!!やめないか!!」
ドリームメーカー鞍上の村木義夫は必死に鞭を使って制止しているが効果を成せずにいる。
(ロンバルディアの気持ちが今わかったわ。
こんな巨体に迫られたらたまらないわね。)
ドリームメーカーがブラックハートに今一度迫るタイミングに合わせて、美幸はサッとブラックハートを落ち着かせるようにさらに位置を下げた。
「ほっほ~い!
美幸ちゃんが最後方まで下がってきちゃったぞ~!」
ドラゴンアマゾン鞍上の野田新之助が嬉しそうに言う。
「ちょっとしたアクシデントよ。
すぐに前に出るわ。」
美幸の答えに野田は、
「おっお~!?
そう簡単に前には行かせないよ~」
と言い放つと外からブラックハートにドラゴンアマゾンの馬体を併せた。
「ちょっ…ちょっと!?
新ちゃん!?」
進路を失ったブラックハートは最後尾まで下がる展開になった。
『さぁ!レースは向こう正面!
間もなく残り1000mを通過します!
先頭はトップシークレット!すぐ後方にブラックエンペラー!』
(さて…そろそろ行くか。)
三田崇は残り1000mの標識を確認してヴィクトリーロードに合図をおくる。
一方、
「じゃあ美幸ちゃん!
オラ先に行くぞ~!」
野田新之助は最後方の浦河美幸に一言告げてドラゴンアマゾンの追い出しを開始。
美幸はその後ろでブラックハートを追い出す。
(くそ~新ちゃんに後手を踏まされるなんて!!)
『残り1000mを通過!!
後続が差を詰めます!
ここで一気にヴィクトリーロードが前2頭を捕まえる!
そしてデビルマンも続く!
その外にはファンタジック!
さぁ!残り800mを通過!
馬群が固まる!
先頭はトップシークレット!
差は無くブラックエンペラーとヴィクトリーロード!
外からドラゴンアマゾンも来ているぞ!
600の標識を通過して最終コーナーへ!
人気のブラックハートは現在7から8番手!
さー!!直線に入った!』
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『先頭はヴィクトリーロードにかわった!
2番手にファンタジック!
続いてデビルマンもがんばっています!
外から一気にドラゴンアマゾン!
さらに外ブラックハート!
そのピッタリ横にドリームメーカー!
ヴィクトリーロードが先頭!
しかしファンタジックが並びかける!
さぁ!ドラゴンアマゾンが2頭に迫る!
残り200mをきって3頭が並んだ!
4番手争いはデビルマンとブラックハート!
続いてドリームメーカー!
昨年の日米英ダービー馬がグランプリで激しい優勝争いを繰り広げています!』