かけがえのないもの-4
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『さぁ!全国の競馬ファンのみなさま!
今年一年を締め括る総決算、有馬記念の発走が近づきました!
本日の1番人気はブラックハート!
鞍上には新たなパートナー浦河美幸を迎えております!
2番人気は前走ジャパンカップで見事復活の勝利を飾ったヴィクトリーロード!騎手はもちろん三田崇!
3番人気ファンタジック!一位洋文を背に宝塚記念に続くグランプリ連覇に挑みます!
4番人気は菊花賞馬エクスキューション!騎手は藤島伸一!
5番人気ドラゴンアマゾン!芝ダート問わず幅広い活躍を見せてくれています!野田新之助といざグランプリ制覇へ!
6番人気には大井競馬所属のデビルマン!
山形茜とともに中央GⅠ制覇を!
7番人気ダービー馬ブラックエンペラー!
【職人】的矢均が選んだ栄光のダービー馬が古馬相手にどう戦うか!?
8番人気は春の天皇賞馬トップシークレット!
9番人気スピードオブライトと岡恭一郎!
そして10番人気は11歳馬ドリームメーカー!真っ赤なボディーに股がるのは3年連続障害リーディング村木義男!
11番人気アルフォンス!
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以上16頭フルゲートです!』
「浦河騎手、やっと乗ってもらえたね。」
ダーリージャパン代表の高橋淳一がパドックで美幸に話しかけた。
「ブラックハートの海外プラン決定の頃からお誘いいただいてましたが、マインドブレーカーの関係で今日まで乗れずにすいませんでした。」
美幸は軽く頭を下げた。
「いやいや、こうして【最後】に乗ってもらえて嬉しいよ。
ドリームメーカーのいる日本のレースで騎乗してもらえるなんて思ってもみなかったからね。」
高橋は周回するブラックハートに視線を移した。
「ブラックハートは本当にこのレースで引退ですか?」
美幸は高橋の顔を覗きこんだ。
「アハハ!そんな眼で見ないでよ。
本当は前走のジャパンカップで引退させるはずだったんだが、あの結果で辞めさせたらブラックハートが可哀想だ。まぁ、ピークは過ぎてしまった感じだから厳しい戦いになるだろうけど、人気になってしまってるからには絶対に勝ちたいね。
頼むよ浦河騎手!」
高橋の言葉に美幸は、
「ベストは尽します。」
と静かに答えた。
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『止まーーれ~~』
パドックに騎乗の合図が響く。
整列していた騎手達が各々自分の騎乗馬に向かう。
いつものように周回時は首を上下して戦闘体勢を作っているドリームメーカーも、この時はおとなしく騎手の騎乗を待つ。
ただ今日は少し様子が違う。
いつもは自分の方へ向かってくるはずの浦河美幸が違う馬に股がったのだ。
バウ~?
(あれ?※著者による通訳)
そしていつも調教での相棒である村木義男が自分に股がろうとしている。
ム~?ム~ブ?
(なんだ?なんでだ?※著者による通訳)
バ!?
(あっ!?※著者による通訳)
フギャーー!!
(そういう事かーー!!※著者による通訳)
ドリームメーカーは激しく体を揺さぶった。
「おい!?なにやってんだ!?」
事の次第に気づいたドリームメーカーはとりあえず村木を振り落とした。
750㎏の巨体が暴れれば鞍上はまさにロデオ状態だ。
ワンワン!!
ガウガウ!!
ガリガリ!!
ワオ~ン!!
一生懸命アピールするドリームメーカーだが、美幸はシカトだ。
プギャーーーッッ!!
怒りが頂点に達したドリームメーカー。
しかしパドックにはもうブラックハートと美幸の姿はなかった。
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「フハハハ!
我が華麗なる一族がグランプリを制する!
おい!?聞いてるか飛田!?
おい?
なぜ黙っている?
はっは~ん…さてはあのドラゴンアマゾンの見事なまでの仕上がり具合に嫉妬しているんだな?
わかるぞ!その気持ち!
なんせお前のところの生産馬は1番人気になってはいるが、すでにピークを過ぎている。
そしてもう1頭はデカイ11歳馬だ。
この舞台にはいささかパンチが足らないな。
うんうん。
それに引きかえ我がドラゴンアマゾンは今がまさにピーク!
息の長い活躍はまさに私の考えた計算通りの完璧な配合!
神が与えた奇跡の脚が今日も見られるぞ!
おい?飛田?
聞いてるのか?
いや待てって…どこへ行く?
話はまだ終わらないぞ。」
トイレでバッタリ会ってしまった飛田雅樹と龍田仁。
残念ながら飛田雅樹は完璧なシカトだ。