表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【10万PV!!】 競馬小説ドリームメーカー  作者: 泉水遊馬
シーズン5 chapter8
297/364

かけがえのないもの-3

『ストライクドリーム鞍上は安田富一!

御歳62才!

引退も囁かれましたが、この馬で来年ダービーを狙うと高らかに宣言しました!


鉄人安田が流星伝説を切り開きます!』


パドックで馬に跨った安田はストライクドリームの足並みをじっくり確認した。


「三杉くん、いい仕上がりだね。」


手綱を引く三杉に話しかける。


「はい、うちのテキが自信を持って仕上げましたから!」

満面の笑みで三杉が答える。


幼い頃から心臓に病を持っていた三杉は、人生に絶望していた。しかし乗馬によって生きる希望を持ちインターハイで優勝をした。

そして厩務員過程へと進み3年前に武田厩舎へと入った。



「さぁ!勝ってデビューを飾ろうストライク!」

安田はストライクドリームの首筋を優しく叩いて激を入れた。


「いよいよですね~田辺さん。」

馬主席で飛田雅樹が田辺真に笑顔で話しかけた。


「ええ!!この日を待ちに待ってました!

あの馬との出会いが僕をこの場に立たせてくれたんです。」


感慨深く話す田辺真に瑶子が優しく口を開く。

「田辺さん。あの仔は運命の馬です。

私たち飛田牧場の人間はファンタジアの夢を今も追い続けています。


そのファンタジアの最後の子供であるニュータイプの残した遺産であるストライクドリームは、あなただけではなく私たちの夢でもあるんです。」


瑶子の言葉を聞いた栗田が突然叫んだ。

「ストライクドリーム!!

待ってた…!!

ずっと待ってたんだ!!


あの日…ニュータイプが欧州三冠を成して引退してから…

その子供の日本でのデビューをずっと待ってたんだ!!」

涙まじりの絶叫に一同ちょっとひく。



「ま…まぁ大事なデビュー戦ですから、我々は信じて見守りましょう。」

飛田雅樹は栗田の肩を軽く叩いた。


「さぁ…そろそろスタートだ。

好きなように走っていいよ。


大丈夫…落ち着いていこう!!」

安田はゲート前で優しくストライクドリームを撫でた。


少し緊張しているのかストライクドリームは一度ブルッと体を震わせた。


「ハハハ!武者震いとは、まるでオグリキャップみたいだな!

よし!いいぞ!

お前は大物だ!」


『さぁ!各馬ゲートに入りました!


体勢完了!



スタートしました!』


ゲートが開いた瞬間、黒鹿毛の馬体は勢いよくターフに飛び出した。


『まずはアドバイザリュートがハナを切ります!


続いてフサイチウルフ!

イーサンホークがこの位置でその内にザニンジャ!


ダンスメジャーが続いて…その外にストライクドリーム!


中団での展開となりましたストライクドリーム!


今日はこの馬に注目です!』



「よし…いいぞ…


この位置でいこう!


じっくり攻めていこうじゃないか。」


安田はゲートを出るまで作戦など考えていなかった。

スタートした時の感触で【差し】を選択したのだ。



『さぁ!1000mを切ってストライクドリームが外をまわって前に位置をあげてきました!』


安田はペースが遅いのを察して捲り気味に前に追い出す。



『さぁ!残り800mを通過!

先頭はアドバイザリュート!

2番手にフサイチウルフですが…

ストライクドリームがそれに並ぶ勢い!』


(いい反応だ…!!)

安田の指示に即座に反応するストライクドリーム。


レースは残り600を切った。


安田は様々な事を確かめながら騎乗していた。

実戦での馬の反応を確認したかったのだ。


(乗り手の指示にはいい反応だ。

追い始めてからの切れもある。


後は……。)


『さぁ直線に入って先頭はアドバイザリュート!

フサイチウルフも差は無い!


ストライクドリームは大外に持ち出して追撃!

残り200で先頭はアドバイザリュートからフサイチウルフに替わった!


ストライクドリームは現在3番手!まだ来ない!?

2馬身差がなかなか詰まらないぞ!?


ん?


安田の手綱はまだ動いていないぞ!?』



(後は…調教の時に見せたあの脚が本番で出せるかだな)

安田は好位でタイミングをはかっていた。



『さぁ!残り100を切った!このままフサイチウルフか!?』


(さぁ!見せてみろ!

お前の脚を!!)


安田のムチが一発入り手綱を一気にしごきあげる。


その瞬間、ストライクドリームの体がギュッと引き締まり加速を強めた。


『外から一気にストライクドリームがアドバイザリュートをかわして2番手に!

そしてあっと言う間にフサイチウルフをもかわした!


これは…凄い脚だ…!!


まさに一瞬の出来事…!!


ストライクドリームが1着でゴール!


父ニュータイプから引き継いだ神の(イカヅチ)を思い出させる走り!


これはまさに【雷脚(ライキャク)】!


雷の如く前2頭を一瞬にして差し切りました!


もう1頭…クラシック候補に名乗りを挙げた!』



(よし…よくがんばった。

お前は素晴らしい馬だよ。)


安田はストライクドリームの首筋を軽く叩いた。


「おお…!!」

原辰巳は圧巻の溜め息を吐いた。


調教で見せたあの脚が、いとも簡単に本番で発揮された事がたまらなかった。


笑顔で帰還する安田富一とストライクドリームを出迎えた原は、

「安田さん!お疲れ様っス!

最高のデビュー戦でしたっスね!」

と、感激を露にしていた。


「ああ!!いい馬だよ!」

下馬した安田も笑っている。


しかし、ひとりだけ不安な顔をした三杉はストライクドリームの脚元をチェックしはじめた。


「…まずいな…。」

三杉の呟きなど聞こえない二人は、今後のローテの話に華を咲かせている。



そこに生産者の飛田牧場一団と、馬主のドリームソフト一行がやってきた。


お互いがお互いの立場で労を労いながら、皆が最高の笑顔でダービーへの意欲を口にしていた。


その中で、飛田牧場の宝田が三杉の様子に気づいた。


「どうしましたんや?」

宝田の問いに、三杉は、

「あ、宝田さん!!

ちょっとストライクの脚元触ってみてください!かなり熱をもってるんです!」

と焦りの表情で訴えた。


宝田はソッとストライクドリームの脚を触る。

「ん!?


これはまさか…!?」



宝田の顔が落胆の表情に変わっている。



立ち上がった宝田は、すでにその様子に気づいた関係者に真相を告げた。


「皆さん。お喜びのところ水を差すようで申し訳ないんやけど、ストライクドリームはしばらく休養ですわ。


疲労により血管神経が圧迫されて熱を発症しています。


やはり…強いインブリードの代償は大きいでんな~」


宝田の発言に、一同言葉を失った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ