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【10万PV!!】 競馬小説ドリームメーカー  作者: 泉水遊馬
シーズン5 chapter8
296/364

かけがえのないもの-2

翌日、12月4週日曜日。


『本日の中山競馬場第3競走、2歳新馬1800m芝レース。


強豪がひしめく今年の2歳世代。

もう1頭の注目馬が本日デビューいたします!』


パドックに現れた黒鹿毛の馬体。

額には鮮やかな流星。


原厩舎の【三杉 瞬】厩務員に手綱を引かれて周回をする新世代の新たな有力馬。



『1番人気はストライクドリーム!

412㎏の小さな馬体!

その体内には流星の系譜と女傑の血が流れています!


父ニュータイプは【神の(イカズチ)】と讃えられた末脚を武器に欧州三冠を達成しました!

母は女傑ヒシアマゾン!エリザベス女王杯を勝ち、ジャパンカップや有馬記念を2着と男馬にもひけをとらない走りで人々を魅力しました!


半兄にユリノアマゾン、ブラックハート!

半姉にはスワンステークスの覇者ティンカーベル!

近親には凱旋門賞馬ファンタジスタ、秋華賞馬シャイニングハート!


新たな流星伝説の幕開けとなるか!?



そして鞍上は…』


遡る事2ヶ月前。


「あ!いたいた!

こんちはっス!」

原辰巳は調教スタンドでベンチに座っているある男に声をかけた。


「なんだ?朝っぱらからデケェ~声で。」


その男は眠たそうな顔で原に言い返す。


「いや~探してたんスよ!

浜崎先生に聞いたらこちらだって聞いたもんスから!」

原は相変わらず大きな声で話し続ける。


その男は眉をひそめて、

「浜崎の二代目に俺がここでさぼってるって聞いて来たのか?

本当に口の軽いヤツだ。

あいつの親父さんは頑固一徹の職人だったがな~!」


と悪態をついた。が、目は笑っている。


「いや~先代の浜崎先生と俺の師匠の武田先生が仲が良かったもんスから、今の浜崎先生とも仲良くさせてもらってるっスよ。」


原の屈託のない態度に、その男は呆れたように聞いた。

「で?何の用だ?」


原は一呼吸おいて聞いた。

「引退されるって本当でスか?」



「アハハハハ!

そんな事か?


アハハハハ!


いや悪い悪い。

なんかおかしくてな。


まだ正式に発表しとらんが、皆知っとる事なんだがそうやってハッキリ聞かれたのがはじめてだったから笑えてきてな。


まぁ、今年で62歳だからな。皆聞くまでもないんだろうな。」


少し寂しそうに語る男に原は笑顔で聞く。

「そう言えばダービーって勝ってないですよね?」


この言葉に男はさらに笑った。

「アハハハハ!

おいおい、そんなデリケートな事をズバリ言うか?


アハハハハ!

キミはおもしろいな~!


ああ、勝っとらんよ。


一度ぐらい勝ちたかったけどな。」



男は原に笑って答えた。


「なんで、そんな年齢まで現役やってたんスか?」

原はまたズバリ聞く。


「なんだ?そんな事を聞くためにわざわざ来たのか?


変なヤツだな。



う~ん…


そうだな…なんでかって聞かれたら…なんでだろうな~


まぁ、やっぱり騎手になった以上はダービー勝ちたいよな~

いつかチャンスがくると思ってたらこんな歳になっちまったよ。


あとは浜崎の二代目を一人前にするって親父さんと約束したからかな。

一応先代は俺の師匠だからな。」



「でもダービー以外のクラシックは勝ってまスよね?」


「ああ、クラシックは1勝してるよ。」


男の顔が綻ぶ。


「元祖三強、ブルーグラスでの菊花賞っスね。」

原の言葉に男は食い付く。


「おお、知っとるか?古い話だ。

トウコンボーイに滝の親父の邦男が乗って、スリーポイントに鹿山、遅咲きのブルーグラスに俺が乗った。


40年前の話だ。


俺もまだ若手だったよ。」


「牝馬のシャイニングハートでダービー2着がありましたよね?。そして秋華賞も勝った。

素晴らしいレースでした。

昨年もユリノファンタジーで乗り替わり一発目で宝塚記念を勝ちGⅠ最年長記録を更新。華ばなしい騎手人生じゃないでスか。


なんで昨年で引退しなかったんスか?」



「なんでって…


なにが言いたい?」



「やっぱりダービーでスか?

ダービーへの夢が捨てれずに今年まで現役やって、引退するいいタイミングを逃して、今更現実を知ったって感じっスか?」



「お前…喧嘩売ってんのか!?」


怒りだす男。


当然だ。



しかし原は真っ直ぐに男を見て言った。


「来年のダービーを一緒に獲りましょう!」


「はぁ?」


男は笑顔の原を見て唖然とした。


「お前…頭おかしいだろ?」

男は原に皮肉をたっぷり込めて言った。


「俺はマジっスよ。

本当に来年のダービー獲りにあなたを鞍上に迎えたいと思っていまス。

うちの2歳有力馬のオーナーもあなたのファンで、あなたに乗っていただく事を強く希望しています。


…もう一年…現役を延長してもらえないっスか?」


原は真剣な顔で男に頭を下げた。


「おいおい…お前のトコの馬はいつもは浦河が主戦で乗ってるだろう?

村木も最近じゃあ平場も乗れてるし。

なんで俺なんだ?」


男の問いに原は、

「あれは…あなたがシルクライトニングで挑んだダービーの時です。

皐月賞2着で挑んだあなたの馬は上位人気で念願のダービー制覇も夢じゃなかった。

しかし、レース前にあなたは馬の異変に気付いた。

馬の脚元に違和感を感じたあなたはレース前に自ら馬を降りました。

発走除外。

栄光のダービーであの程度の違和感で夢を棄てたあなたの姿に感動しました。

普通の騎手ならそのままゲートに入っていたでしょう。


うちの馬には…特にあの馬には、馬を第一に考えてくれる騎手に乗って欲しいんでスよ。

正直…期待できる強い馬っス。

しかしそれと同じように体質の弱い馬っス。」



原の言葉を最後まで聞いた男は、ベンチから立ち上がった。


「ま、とりあえず馬を見せてくれ。

話はそれからだ。」


勝負師の顔に変わった男の目を確認した原は、厩舎へと男を誘導した。


ストライクドリームの待つ厩舎へと。


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