雷鳴-3
数日後、どこで漏れたか先日の感動の再会がホースニュースの記事となった。
巨大暴れ馬と美人牧場スタッフとの心の交流、過去のエピソードとして俺が侵したセリ市での失態、その場にいた臼井調教師のコメントなどが掲載されていた。
稀代の巨漢暴れ馬ドリームメーカーは違う意味で世に名を広める事となった。
しかしメインの特集記事はダーリージャパン関連であった。
小規模牧場を次々とは買収して拡大を拡げ、ヨーロッパから高額な繁殖牝馬を輸入して徐々に勢力を整え始めている。
日本での馬主資格を取得し昨年末から続々とダークブルーの勝負服で外国産馬をデビューさせている。
中でも昨年デビューした3歳馬デビルカッターは11月にデビューして年末のラジオNIKKEI杯2歳ステークスで重賞制覇した有力馬だ。今年弥生賞でクラシックの出走権利を獲得したい構えだ。母馬はアイルランドオークス馬キュアダイアナ。父馬は英国三冠馬エルシド。青鹿毛。クラシック候補の不気味な存在になるだろう。
代表の高橋氏のコメント
「世界中のダービーと名のつくレースを獲ってきたモハメッド殿下が唯一獲っていない日本のダービーを是非プレゼントしたい」
ちなみに一昨年のセリ市で10億円と言う競り値で話題となった今年デビュー予定の二歳馬
《ロンバルディア》
はダーリージャパン所有馬である。
ホースニュースを読み終えた俺は、暇だったんでコナンの血統表を見た。
…やはりサラブレッドに間違いない。どこでどう間違えたらあんなデッカイのが産まれてくるのだろうか…。
そしてあんな馬を操れるジョッキーは、北斗の長兄以外思い当たらない。
ドリームメーカー…こいつは俺の夢を叶えてくれるのだろうか…心配だ。
季節は春。俺がこの牧場を継いで3度目の出産シーズンとなった。
ファンタジアも無事オペラハウスの仔を生み、子出しの良さに感謝している。
ファンタジアとオペラハウスの牝馬は売らずに俺の持ち馬として二年後デビューさせるつもりだ。
世間は春のGⅠシリーズに盛り上がっている。桜花賞をハイネスが制し、来週の皐月賞は外国産馬が本命視されている。
ダーリージャパンのデビルカッターだ。
弥生賞はまさに圧巻だった。逃げの戦法で直線でさらに捲る脚に見るものすべての言葉を失わせた。
ここ数年、ドラゴンアローやナイトメアなどのスーパーホースが続出していたが、デビルカッターはそれ以上のオーラを感じる…宝田の言葉である。
異国の地より襲来してきた新たなスーパーホースが日本競馬を侵略していく事態となるかもしれない…。
瑤子は最近超ご機嫌だ。毎週のようにコナンに会いに行ってる。その度に先方では被害者が続出。苦情の電話をいただいた。しかし瑤子のあんなにも嬉しそうな顔を見ていると、もう行くなとは言えない…。
俺は良心を押し殺し、今日も笑顔で瑤子を見送るのだ…。
そして日曜日。皐月賞で俺達…いや日本中の競馬ファンや関係者がダーリージャパンの脅威を見せつけられる事となった…。
ダーリージャパンにとって日本進出の初世代となる今年のクラシック。
第一弾皐月賞は大雨のなか不良馬場での開催となった。桜をすべて散り尽す程の豪雨の中、逃げ切ったデビルカッターの勝ちタイムはコースレコード。二着に10馬身以上の大差をちぎる圧勝だった。鞍上のペリア騎手はレース後にこうコメントした。
「シンジラレナーイ!」
まさに信じられない結果だった。長い日本競馬の歴史がこのたった1レースですべて覆されたのだ。
レース後の高橋氏のコメント
『この結果は当然だと思っている。本来ならば英国ダービーの勝ち馬になるはずの馬をモハメッド殿下の熱意で日本に送ってくださった。今後も日本で敗ける気は一切しないし、敗けてはいけない馬だて信じている。』
日本競馬に対する挑発的なコメントであった。
二着馬アドバイザメモリー騎乗の長部騎手のコメント
『天候のせいか視界が悪く、レース中は勝ち馬の姿はおろか蹄音すら聞こえなかった。』
規格外の強さを見せつけたデビルカッターの次走は日本ダービーである。
「めっちゃめちゃ凄い…」
宝田は感動していた。日米でずっと馬産業に従事してきた彼にとって強さとは憧れである。馬は生き物である以上、血統だけではその馬の強さをコントロールできない。それを誰よりも理解している宝田だからこそ、この計算しつくされた規格外の馬に憧れを抱かずにはいれないのだろう。
「こんな悔しい事はないわね…」
瑤子はどちらかと言えば生産者の立場よりも馬主寄りの志向が強い。彼女はマル外馬を好んで所持する相羽の元で芽生えた競馬理念を思い出していた。外国産馬でも日本人馬主で日本で調教を受けて日本で活躍すれば、ただ名前の上にマル外と付くだけの《日本活躍馬》であると強く思っていた。だからクラシックや天皇賞にマル外馬が一部解放された時は嬉しかった。
しかしダーリージャパンの外国産馬は調教もオーナー方針で行われている外国馬である。
現にインタビューを受ける松川調教師の顔に喜びは見えない。彼はただ名前と馬房を貸しているだけで、ダーリージャパンの調教スタッフが実質の管理をしているのだから。
今日…大雨の中山競馬場で競馬の歴史が変わった。




