暁-7
出産シーズンを終えて無事すべての仔馬が産まれた。アグネスタキオンとファンタジアの牝馬も元気だ。
種付けシーズンとなり、今年は宝田に配合を任せファンタジアにはオペラハウスを付けた。
ナイトメアが天皇賞(春)と宝塚記念を制してフランスへと空輸された七月。
ホースニュース編集長の安田が牧場に訪れた。
またビンゴの取材かと思い勇んで対応しようとした俺だが、どうも用件は宝田にあるらしい。
「宝田さん、アメリカでのお噂は聞いておりますよ。」
そんなに有名なのか?
「先日、お伺いした時には留守だったようで…」
ビンゴの取材の時か…宝田は医療施設の方に行っていたからな…。
「で?ご用件はなんでっしゃろ?」
宝田の問いに安田は
「ズバリお聞きしたいのですが、今年1歳の来年デビュー馬で、あなたの思う有力馬をお聞きしたいのです。」
なるほど。前回、安田はビンゴの取材と言う事は前提で宝田に会いに来たのか。
それにしても凄い質問だ…。
「アハハ!そんなんわかるわけありませんわ~」
そりゃそうだ。
「私だってプロです。冗談でこんな質問するために東京から来ませんよ。宝田さん、あなたがアメリカ時代に選定したケンタッキーダービー馬の《イージーノア》と《シーキンザキング》。どちらともあまり評価の良い馬ではなかった。アメリカ競馬界を震撼させたあなたの相馬眼。もちろんなにか光る馬を見つけているんでしょう?」
イージーノアとシーキンザキングだって!?
瑤子も興味深そうに聞耳をたている。
「う~ん…まぁ…クラシックに関しては、エアグルーヴの仔はピカイチでんな~。ドラゴンアローの全弟もかなり素質馬やと思います。まだ生で見たことありませんが、相羽さんのヒシアマゾンの仔もいいでんな~。あっ後はうちで生まれたファンタジアの仔はきっと走りまっせ~」
なんだよ。そんなのわかってるよ。
「やはりその4頭ですか…もっと違う馬の名前を聞けると思ったんですが…」
落胆する安田に宝田は言った。
「僕は神様じゃおまへん。何千頭といる馬をすべて見たわけじゃありませんし。アメリカの件は偶然ですわ~。あまり過大評価しないでください。」
安田が帰った後、瑤子が宝田に言った。
「コナンは?」
「コナンでっか?クラシックは無理でんな~」
アメリカを震撼させたらしい相馬眼の持ち主がはっきり言った。
瑤子は真剣に聞いている。
「コナンは生まれた時の様子やとかなり雄大な馬体になると思います。」
雄大って…ありゃもう牛だぞ…。
「スピード能力はあまり望めないから、早いうちはレース選択に困りまんな~」
なるほど。新馬戦や2歳3歳戦は短距離から中距離が多いからか…。
「それに母馬のフォーリンレインや父馬のゴーゴーヘヴンは、本格化が3歳秋から。あのヤンチャぶりやと気性的にも大人にならな真っ直ぐ走りませんわ~」
俺はさっそく噛まれたぞ…。
聞入っていた瑤子が口を開いた。
「宝田さんが言ってたコナンが期待できる理由ってなんなの?」
たしかに、俺も聞きたい。
「理由でっか?そんなんはありゃしませんわ~」
なに~!?
「ただ…似とったんですわ…ジョーと…。あっイージーノアの幼名でんねん。」
似てるってコナンは栗毛でイージーノアは鹿毛だろ?
「雰囲気がもうそっくりでね~。あの闘志剥き出しのヤンチャぶりとかね~。」
説得力には欠けるが、妙に納得してしまった。
「私…宝田さんの相馬眼信じるわ…」
瑤子も同じようだ。
でも瑤子も宝田も今のコナンを見ていない。俺は見たんだ…スペインの闘牛場にいそうなデカイ1歳馬を…。